スポンサーサイト

     --,-- --:--
    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    琅琊榜 第4話 (翻訳 1/2)

     18,2015 17:12
    nirvana_in_fire_04_01.jpg


    原題 : 琅琊榜 Nirvana in Fire
    英題 : Nirvana in Fire

    制作 : 侯鴻亮
    監督 : 孔笙 / 李雪
    主演 : 胡歌(フー・ゴー)/ 劉涛(リウ・タオ)/王凱(ワン・カイ)


    【あらすじ】

    4世紀中国の動乱のさなか、
    封建国家の渝と南部地方の梁の間で戦が起こる。

    梁の林燮(リン・シェ)将軍は、自身の十九歳の息子、
    林殊(リン・シュー)を戦に伴い、敵対する渝の軍を退ける。

    しかし、政敵が林燮将軍を罠に陥れ、それは
    将軍が率いる七万の赤焔軍の死を引き起こす惨劇となる。

    忠実な部下の助けでかろうじて命拾いし、
    生き延びた林殊は、江湖に江左同盟を設立。

    十二年の時を経て、宗主・梅長蘇(メイ・チャンスー)
    として、名を変え、立場を変え、姿さえ変えて都に戻る。

    渝軍が再び攻撃を仕掛けるとき、
    梅長蘇は、己が守るべき人々をどのように守るのか?



    (ご注意)

    ※英文字幕を、中文の助けも借りて日本語字幕にしたものです。
     中国語→英語の段階で意訳されているものが多々ある上、
     英語字幕自体、誤字脱字誤訳が多いため、元の内容と異なる
     可能性があります。意訳が著しい場合、中文を元にしています。

    ※セリフのほとんどに対応していますが、あくまで素人が
     趣味で訳したものなので、「ざっくり内容が知りたい」方向け
     です。正確さを求める方は、公式放送をお待ちください。

    ※素人翻訳ではありますが、転載・再利用などはご遠慮ください。

    楽しんでくださる方がいらっしゃれば、幸甚です。




    ++++++++++++++++++++





    百里奇(バイリ・チ)の一撃で吹き飛んだ
    蕭景叡(シャオ・ジンルイ)が起き上がり、
    再び広間中央へ戻ったところへ、梁帝の声が飛んだ。

    梁帝「そこまでだ!」


    nirvana_in_fire_04_01_001.jpg


    梁帝「ふたりとも、もう十分であろう」

    広間に響いた皇帝の声は苦々しさを帯びていたが、
    梅長蘇(メイ・チャンスー)は、
    ひとりのんきにみかんを頬張っている。

    百里奇「お手合わせ感謝いたす」

    そう言って礼を取ると、百里奇は
    握っていた剣を無造作に放った。

    剣は、狙いたがわず正確に蕭景叡の足元に突き刺さった。

    蕭景叡ははっと息を飲んで顔を上げると、
    百里奇を睨み据える。

    梁帝「百里奇よ、そなたの武芸の腕はやはり非凡であるな」

    百里奇の代わりに北燕使臣が口を開いた。

    北燕使臣「お褒め頂き恐悦に存じます、皇帝陛下」

        「百里奇は、我が第四皇子の配下の者で、
         皇子のお気に入りでございます」


    nirvana_in_fire_04_01_002.jpg


    北燕使臣「私は第四皇子より、陛下に敬意を
         表するよう命を受けております」

    そういうと使臣は立ち上がり、
    皇帝に向かって頭を垂れた。

    北燕使臣「我が国が郡主をお迎えする時は……」

    梁帝「その話は、ちと気が早かろう」

    意気揚々と続ける使臣を
    梁帝が苦々しい表情で遮ると、
    別の方向からも哄笑する声が響いた。

    他国の使臣「さようですとも」

      「まだ郡主と手合わせもしておらぬのに、
       もうそのような話を持ち出すとは」

      「それに、貴公の話しぶりは妙ではないか」

      「貴公はいったい、北燕の使臣であられるのか、
       それとも第四皇子個人の使臣であられるのか?」

    他国の使臣が、北燕の使臣を声高に
    揶揄している間、霓凰(ニファン)郡主と
    梅長蘇が、声を潜めつつも二言三言、
    楽しげに言葉をかわしているのを梁帝が見咎めた。


    nirvana_in_fire_04_01_003.jpg
    nirvana_in_fire_04_01_004.jpg


    梁帝「霓凰」

    呼ばれた霓凰郡主が振り返る。

    梁帝「そなた、蘇卿と何を話していたのだ?」

    郡主は、突然の下問に戸惑った様子を見せながら
    口を開いた。

    霓凰「蘇先生は、先ほどの対戦について
       少し評されただけです。
       たいした話ではございませぬ」

    梁帝「蘇卿は、並み外れた文才を
       持っているだけではなく、
       武芸にも通じておるということか?」

    皇帝の問いに、困ったように視線を泳がせた
    梅長蘇は、不遜な笑みを浮かべる北燕の使臣と
    目が合うと、再び霓凰郡主に視線を戻した。

    霓凰が代わりに立ち上がる。

    霓凰「陛下」

      「蘇先生が仰ったのは、百里奇殿の
       武芸は非常に優れているが」


    nirvana_in_fire_04_01_005.jpg


    霓凰「ただし、あまりにも"頑強さ"に
       重きを置きすぎているゆえ」

      「もし綻びを見つけられれば、
       数人の子供でも倒せると」

    隣に座っていた太子が驚いて振り返る。

    北燕使臣も、高笑いして立ち上がった。

    北燕使臣「子供数人で倒せるですと?」

        「もし蘇先生が本当に武芸に精通して
         いらっしゃるということであれば」

        「ぜひお手並み拝見と行きたいところですな」

    笑いまじりではあったものの、
    不快感を隠そうともしない使臣に対し、
    梅長蘇が困惑した笑みを浮かべて立ち上がる。

    梅長蘇「ただの戯言です」

       「百里奇殿がここまで武芸を高めるのは
        容易なことではなかったでしょう」

       「彼の前途を汚すに忍びませぬ」

       「どうかお二方とも、私の言葉は
        お聞き流しくださいますよう」

    北燕使臣「先生には、陛下の御前でかような言われよう」


    nirvana_in_fire_04_01_006.jpg


    北燕使臣「どうして聞かなかったことになど出来ようか」

        「『行動は言葉より雄弁である』と申す」

        「試しに、幾人か子供を連れて来られるがいい」

        「百里奇は、一戦して疲れもあろうが
         しかし先生の大言壮語に対し、
         興味はぬぐい切れまい」

    梅長蘇「いますぐにというわけには」

       「もし仮に、幾人か
        子供を見つけられたとしても」

       「少なくとも彼らに教えるのに
        数日はかかります」

    梅長蘇の言葉を苦しい言い逃れと見なした
    使臣が鼻で笑った。

    梅長蘇は、取りなすような笑みを浮かべる。

    梅長蘇「もうよろしいでしょう」


    nirvana_in_fire_04_01_007.jpg


    梅長蘇「どうか私の戯言とお聞き流しください」

       「お二方は遠方よりいらした客人であられる」

       「和やかな空気を壊すのは不粋かと」

    その時、それまで黙って聞いていた百里奇が口を開いた。

    百里奇「使臣殿。使臣殿は、この話を
        聞き流せるかもしれぬが」


    nirvana_in_fire_04_01_008.jpg


    百里奇「私には出来ぬ……!」

    百里奇の言葉を受けて、使臣が挑発的な笑みを刷いた。

    北燕使臣「よかろう!」

        「もし、指導が必要というのであれば、
         我らも数日を急ぐわけでもない」

        「陛下、日をお決めください」

        「我らは、呼ばれればすぐに
         その場に参じましょうぞ」

    梅長蘇「しかし、私もこの都へは初めて来たばかりで」

       「知人もなく、土地にも不案内です」

       「どこで子供たちを探せばよいと?」

    北燕使臣「難しいことではなかろう」

        「貴国の都の武芸館には、大勢の
         若い弟子たちがいると聞き及んでいる」

    霓凰「あら」

    霓凰郡主が片手を上げた。


    nirvana_in_fire_04_01_009.jpg


    霓凰「武芸館の子供では強すぎます」
      「百里奇殿に不利なのでは?」

    梅長蘇「郡主のお気遣いの通りです」

       「武芸の経験のある者で包囲攻撃するのは
        あまり公平とは言えぬかと」

    いたって真面目な顔でやりとりしていた
    霓凰と梅長蘇だったが、そのあまりの
    内容に、周囲に笑いが広がった。

    使臣の顔に屈辱の色が滲む。

    霓凰「弱い子供なら、むしろ宮中にいるわ」

      「掖幽庭には子供がたくさんいるのでは?」

    梅長蘇「……掖幽庭の罪人の奴婢、ですか」

       「それならば、普通の家の子供より
        むしろよいかもしれません」


    nirvana_in_fire_04_01_010.jpg


    梅長蘇「陛下がお許しくださればですが」

    梅長蘇の視線を受けて、梁帝は
    そばの蒙摯に小声で問いかけた。

    梁帝「蒙卿よ。そなたはどう思う?」

    問われた蒙摯は、梅長蘇をちらりと
    一瞥してから、皇帝に向き直った。

    蒙摯「陛下」

      「蘇哲の言葉には、けして
       道理がないわけではございませぬ」

      「やらせてみてもよいかと思います」

      「勝てば無論よし」

      「よしんば負けたとしても」


    nirvana_in_fire_04_01_011.jpg


    蒙摯「百里奇の鋭気を削ぐことができましょう」

      「いずれにせよ、我らに損はございませぬ」

      「陛下。特別にお許しになられては」

    梁帝「……よかろう」

      「誰かいるか」
      「掖幽庭へ行き、幾人か子供を連れて参れ」

    高湛「はい」

    蒙摯「陛下」

      「武芸を学ぶには、骨格を見る必要がございます」

      「私が参りましょう」

    梁帝「よかろう」


    nirvana_in_fire_04_01_012.jpg







    内官「行け。跪くのだ」

    掖幽庭の子供たちが外に集められ、並べられた。


    nirvana_in_fire_04_01_013.jpg


    石畳に跪いた子供たちを、蒙摯がじっと見つめる。

    やがて一人を指差すと、内官がその子供を立たせた。

    蒙摯は子供の肩を掴み、骨格を確かめると、頷いた。


    nirvana_in_fire_04_01_014.jpg


    選ばれた子供は、背後に並んだ。

    蒙摯はまた別の子を指差し、同じように肩を掴み、
    今度は首を横に振る。

    またひとり、肩を掴み、頷いた。

    そうしてふたりを選んだ蒙摯は、
    最後にひとりの子供に目を止めた。

    周りの子らと同じように、じっと地面を見つめて
    うつむくその子供は────庭生(ティンシェン)だった。


    nirvana_in_fire_04_01_015.jpg







    庭生を含む三人の子供が皇帝の前に召し出された。


    nirvana_in_fire_04_01_016.jpg


    梁帝「面を上げよ」

    皇帝の前に跪いた子供たちは、
    おずおずと躊躇いながら、わずかに顔を上げる。

    梁帝「もう少し上げよ」

    皇帝に促され、子供たちはまたわずかに
    身を起こしたものの、結局
    まともに顔を上げることは出来ずじまいだった。

    梁帝「蘇卿」

      「この子らで使いものになるか?」

    梅長蘇「蒙大統領が自らお選びになったのであれば、
        素質は悪くないと思われます」

       「ただ、この子らを侯府に連れ帰り、
        五日間教える必要があるのですが」

       「どうか陛下にお許しいただきたく」

    子供たちを一瞥した皇帝は、あっさり頷いた。

    梁帝「よかろう」


    nirvana_in_fire_04_01_017.jpg


    梁帝「もし五日の後に勝利することができれば
       十分な褒美をつかわそう」

    皇帝はそう約束したが、梅長蘇は喜びを表すでなく、
    ただ目を伏せた。

    梅長蘇「せっかくの陛下のご温情ではございますが、
        この子らはみな、罪を背負う身」

       「おそらく、多くの金銀財宝や絹を得ても、
        使い道がありませぬ」

    梅長蘇の答えに、梁帝がくつくつと含み笑う。

    梁帝「蘇卿、そなたは誤解しておる」

      「朕が言ったのは、そなたが報奨されるということだ」

    梅長蘇は、皇帝に向き直ると礼を取った。

    梅長蘇「私は、褒美を受けるに値いたしませぬ」

       「実際に戦うのはこの子らでございます」


    nirvana_in_fire_04_01_018.jpg


    梅長蘇「どうか陛下、褒美ならば彼らが賜りますよう」

    ふたりのやりとりを聞いていた北燕の使臣が
    ゆっくりと立ち上がった。

    北燕使臣「陛下」

        「今、恩賞を論じるのは」


    nirvana_in_fire_04_01_019.jpg


    北燕使臣「少々気が早いのではございませぬか?」

    梁帝「その通りだな」
      「五日後に、蘇卿の本領を見るとしよう」








    蕭景叡「蘇兄、いったいどの程度自信がおありなのですか」


    nirvana_in_fire_04_01_020.jpg


    景叡は、隣を歩く梅長蘇に尋ねた。

    宴を辞した帰り道、ふたりの隣には
    言豫津(ヤン・ユジン)が並んで歩き、
    後ろには三人の子供たちが続いている。

    蕭景叡「さきほど少し試してみましたが」

       「この三人の子供らは、武芸の心得は
        まったくといっていいほどありませんよ」

    梅長蘇「そなた、『凌虚剣陣』について
        聞いたことはあるか?」

    蕭景叡「蘇兄がおっしゃっているのは、
        『凌虚幻影』のことですか?」

       「鬼神も破れぬという、あの剣陣」

    梅長蘇が頷く。

    蕭景叡「耳にしたことはありますが」

       「しかし、聞いたところでは、
        とうに失われたものだとか」

    梅長蘇「なんだ?」
       「私が信じられないのか?」


    nirvana_in_fire_04_01_021.jpg


    梅長蘇がいたずらっぽく揶揄すると
    心配そうに眉をひそめていた蕭景叡も
    微かに笑みを浮かべる。

    蕭景叡「蘇兄は、広く世の中のことをご存じだ」

       「信じぬわけがありませぬ」

       「ただこの三人の子供たちは、
        まったく何の基礎も……」

    言豫津「景叡!」

    さらに言い募ろうとする蕭景叡を言豫津が制する。

    言豫津「蘇兄は言ってたじゃないか」
       「成算があると」

       「もしこの三人の子らが百里奇に勝ったら」

       「やつがどの面下げて霓凰姐姐と
        対戦するか見ものだな」


    nirvana_in_fire_04_01_022.jpg







    梁帝「蒙卿よ」

    蒙摯「ここに」

    梁帝「そなたは我が大梁の第一の武人だ」


    nirvana_in_fire_04_01_023.jpg


    梁帝「武芸においては、朕はそなたにのみ
       信を置いておる」

      「そなたはどう思う?」

      「あの蘇哲とやらが今日言うたことは、
       故意に燕の者を怒らせるためであったのか」

      「それとも、実際に可能と踏んでのことか?」

    蒙摯「陛下」

      「あの者は、百里奇の鍛錬法は
       誤っていると申しておりました」

      「あまりにも"頑強さ"にこだわり過ぎていると」

      「この点については間違いございませぬ」

      「私の知る限り、江湖には、武芸を知らぬ
       者ほど、より容易く習得できるという、
       まことに奇怪な歩法や陣法があるとか」

      「陛下は、ただ五日後にまたご覧になれば
       よろしいかと」

      「もし負けたとしても」

      「今より状況が悪くなるということも
       ございませぬ」


    nirvana_in_fire_04_01_024.jpg


    蒙摯の言葉に、梁帝は頷いたものの、
    頭の痛い問題に眉を寄せ、首を振った。







    妃の一人が、瞳を潤ませて足早に回廊を歩いていた。

    回廊で行きあった静嬪がしとやかに礼を取る。

    静嬪「恵妃姐姐」

    (※姐姐=ジェジェ:姉、もしくは親しい年上の女性への呼称)


    nirvana_in_fire_04_01_025.jpg


    静嬪の姿を認めた恵妃は、そっと目元を手巾で拭った。

    恵妃「静嬪妹妹」

    (※妹妹=メイメイ:妹、もしくは親しい年下の女性への呼称)

    静嬪「どうなさったのです?」
      「目が真っ赤ですわ」

    問われた恵妃がわずかに眉を寄せる。

    恵妃「他に何があるというの?」

    静嬪「また皇后さまですか」

    恵妃「皇后さまは、私が写した経文の文字が
       正しくないとおっしゃって……」

      「一度私をお呼びになって、罰をお与えになれば
       それで十分でしょうに」

      「見せしめのため、私に先の皇太后の宮まで行って」

      「仏堂に蝋燭三十本を灯せと」

    静嬪がため息をついた。

    静嬪「皇太后がお亡くなりになってから
       もう何年も経ちますものね」

      「宮は封じられ、仏堂も閉ざされたまま」

      「貴女は昔から恐がりでいらっしゃるから、
       わたくしがご一緒いたしましょう」

    恵妃が顔を上げると、静嬪が力強く頷いてみせる。


    nirvana_in_fire_04_01_026.jpg


    静嬪は恵妃の腕を取ると、彼女を促し、共に仏堂へと歩き始めた。







    外を掃除する内官がいるほかは
    人気のない庭を横切って、若い侍女がひとり
    古びた建物に近づくと、扉を開けた。


    nirvana_in_fire_04_01_027.jpg


    侍女「呉さん、いるの?」

    中に向かって呼びかける。

    すると、老いた奴婢の声が小さく答えた。

    呉「珍さま」







    仏堂で、恵妃が一本一本、蝋燭に火を灯していた。


    nirvana_in_fire_04_01_028.jpg


    静嬪は隣で静かに祈りを捧げている。

    蝋燭に火を灯し終えた恵妃が、種火を消した。

    静嬪「姐姐、腕がお疲れになったでしょう」

      「さあ、もう参りましょう」

    静嬪が、恵妃の腕を取って外へと促す。

    静嬪「姐姐」

      「おつきの者たちはみな、南側の門の
       ところでお待ちしておりますわ」

      「こちらからそこまで参りましょう」

    静嬪が恵妃を支えながらそう言うと、
    恵妃は小さく微笑を浮かべた。

    恵妃「彼女たちは楽ができるでしょうけど」

      「でもあなたに面倒をかけてしまうわ」

      「ずっと私に付き添わせてしまって、
       苦労をかけるわね」

    静嬪「姐姐も、私がもともと医女だったことを
       ご存知でしょう?」

      「このくらいのこと、なんでもありませんわ」

    ふたりが談笑しながら歩いていると、
    そこへ突然、雨が降り始めた。


    nirvana_in_fire_04_01_029.jpg


    ふたりは、雨を避けて近くの建物の軒下へと入った。

    珍「前回、私の主があなたにお願いした
      あの品は、まだ見つからないの?」

    呉「見つけました」
     「見つけましたとも」

     「この後宮中で、これを持っているのは
      今ではわたし一人でございますよ」

    雨宿りしていた恵妃は、建物の中から
    聞こえてきた会話に興味を惹かれた様子で
    そっと耳をそばだてる。


    nirvana_in_fire_04_01_030.jpg


    老婆が手にしたものを見て、
    若い女官が怪訝そうに口を開いた。

    珍「これがあの時、先の皇太后が
      莅陽(リヤン)長公主に使ったものだと
      いうのは確かなの?」

    呉「これこそが『情絲繞』でございます」


    nirvana_in_fire_04_01_031.jpg


    聞き耳を立てていた恵妃が、
    飛び込んできた単語に驚いて静嬪を振り返る。

    静嬪の顔も強張っていた。

    呉「もしこれを用いる時は……」

    中では会話が続いていたが、
    恵妃は声を潜めて静嬪に問いかけた。

    恵妃「彼女たちが言っているのは『情絲繞』のこと?」


    nirvana_in_fire_04_01_032.jpg


    部屋の中からはさらに声が漏れ聞こえてくる。

    呉「盃に半分ほどで十分でございます」

    静嬪は恵妃の腕を掴むと、急いでその場から離れようとした。

    恵妃「もう少し聞きましょう」

    恵妃はそう言って抵抗したが、
    静嬪は無理やり恵妃の腕を掴むと、
    せきたてるようにしてその場を後にした。







    珍「数日ここで待っていてちょうだい」

     「宮殿を出て、家族に会えるように手配するわ」

     「ただし、あなたがこれを渡したことは
      誰にも言ってはいけない」

    呉「はい」
     「承知いたしております」

    薬を袖に隠した侍女は、あたりをうかがうように
    見まわしてから、そっと建物を出て行った。


    nirvana_in_fire_04_01_033.jpg







    恵妃「ねえ聞いて、『情絲繞』は、あのお酒は」

      「以前、聞いたことがあるわ」


    nirvana_in_fire_04_01_034.jpg


    恵妃「あれは、催淫剤の効果があるのよ」

      「そして、もし女人があれを一杯飲めば、
       四肢から力が抜けて、すぐに意識が朦朧と
       してしまうの」

      「先の皇太后があれを使ったことがあると
       言っていたわよね?」

      「宮中に何故まだあんなものがあるのか
       わからないけど」

      「でももし誰かがあれを使おうと
       しているのなら、絶対に
       よい目的のはずがないわ」

      「ねえ妹妹、私たちはいま、どうするべきだと思う?」

    静嬪「この宮中では、まずは我が身を守らねば」

      「姐姐、何も見なかった、
       聞かなかったことにするのです」


    nirvana_in_fire_04_01_035.jpg


    静嬪「行きましょう」







    三人の子供が、地面に書かれた円の中でお互いに相対している。

    三人は、同時に木刀を構えたかと思うと、
    小さな円の中で、次々と型を演じ始めた。


    nirvana_in_fire_04_01_036.jpg


    梅長蘇は、書物を手に部屋から出てくると
    しばらく庭の子供たちの動きを眺めていたが

    やがて回廊の手すりに腰をかけ、
    書を開きながら口を開いた。

    梅長蘇「飛流」

       「彼らの速度が、そなたと同じ速さに
        なるまで、訓練させねばならぬ」

       「そうすれば、勝利を確かなものにできよう」


    nirvana_in_fire_04_01_037.jpg


    飛流「うん」

    飛流は大きく頷くと、三人の少年たちを振り返った。

      「もっとはやく!」

    そう声をかけると、そのまま腕組みをして少年たちの動きを見守る。


    nirvana_in_fire_04_01_038.jpg


    そこへ、涼やかな声がかかった。

    霓凰「まことに、すばらしい技ね」

    書物に目を落としていた梅長蘇が
    驚いて顔を上げる。

    回廊を、謝弼(シェ・ビ)の先導で
    霓凰郡主が歩いて来るところだった。

    謝弼「郡主、どうぞこちらへ」


    nirvana_in_fire_04_01_039.jpg


    梅長蘇は書を置き、立ち上がった。

    歩み寄ってくる郡主に向け、礼を取りながら尋ねる。

    梅長蘇「郡主、なぜこちらへ?」

    霓凰「蘇先生」

    霓凰は礼を返すと、笑顔で続けた。

    霓凰「蘇先生が百里奇と戦わせるために
       この子たちを教えているのは、
       つまるところ、私にも関係のあることです」

      「様子を見に来ることは、
       別に不思議でもないでしょう?」

    梅長蘇「この子らは、今はまだ何の成果も
        出してはおりません」


    nirvana_in_fire_04_01_040.jpg


    梅長蘇「郡主のお目にかけるのも
        お恥ずかしい次第です」

    霓凰は笑みを浮かべると、梅長蘇と話を続ける前に
    謝弼に向かって告げた。

    霓凰「ここまで案内して下さってありがとう」
      「ご苦労さま」

    謝弼「とんでもありません」

    謝弼も笑顔で答えたが、郡主の視線を受けて、
    やっとその意図に気付く。

    謝弼「あ……、それでは私はまだ用事が
       ありますのでこれで」

      「お二方のお邪魔はいたしませぬ」

    礼を取ると、謝弼は踵を返した。

    霓凰「もし蘇先生さえよろしければ」

      「この子たちにもう一度、先ほどの陣法を
       演じさせていただけないかしら?」


    nirvana_in_fire_04_01_041.jpg


    立ち去り際、郡主の言葉を耳にした
    謝弼は、一瞬足を止めたものの、
    そのまま回廊を曲がり、立ち去った。







    寧国侯府の回廊を、梅長蘇と霓凰が並んで歩いていた。

    霓凰「先生の陣法は確かに独特ね」

      「ただし、明らかに攻撃力が足りない」

      「百里奇は訓練によって、
       熟達した技量を持っている」

      「彼を倒すことは、容易なことではないわ」

    梅長蘇「まだあと数日は、時間があるのではありませんか?」


    nirvana_in_fire_04_01_042.jpg


    梅長蘇「急いてはことをし損じます」

    霓凰「数日ぐらいでは、恐らく
       何の役にも立たないでしょう」

      「……先生が他に、妙案をお持ちというのでなければ」

    そう言って霓凰が見上げると、
    梅長蘇はただ静かに微笑んで視線を逸らした。

    郡主が、淡々と続ける。

    霓凰「私はいま、苦しい立場にいるわ」
      「既にどこにも退路はない」

      「けして油断されることのないよう、
       お力をお貸しくださることを願います」

    梅長蘇「郡主、どうかご心配なく」

       「この件については、必ず私が
        適正に解決いたします」

    そう告げた梅長蘇の声は、いつもと変わらず
    静かではあったけれども、その淡々とした
    響きの中には、確かに強い決意が込められていた。

    そんな梅長蘇の横顔をじっと見つめていた霓凰は、
    やがて視線を逸らすと、ぽつりと呟いた。

    霓凰「……なぜかは分からないけれど」


    nirvana_in_fire_04_01_043.jpg


    霓凰「私はあなたを信じているの」


    nirvana_in_fire_04_01_044.jpg


    霓凰の言葉に、梅長蘇はただ黙って会釈すると
    静かにその場を歩み去った。







    静嬪が、自室で小さな巾着を縫っていた。

    侍女「小新。これを持って行って」


    nirvana_in_fire_04_01_045.jpg


    小新は、小さな盆を手に静嬪のところへ来ると
    盆を卓に乗せてから口を開いた。

    小新「静嬪さま、もうこんなに遅い時間です」

      「お休みになられたほうが」

    小新の言葉にも、静嬪は笑みを浮かべただけで
    手を休めようとはしなかった。

    小新「袋の刺繍が一日二日遅れても
       たいした違いはありません」

      「今夜、わざわざ急いでお作りに
       ならずともよろしいかと」

    静嬪「早く作り終えれば、それだけ早く
       太皇太后に差し上げることができるわ」

    うなずいて刺繍糸を揃えようとした小新に
    静嬪は手を動かしたまま続けた。


    nirvana_in_fire_04_01_046.jpg


    静嬪「あなたまで付き合う必要はないわ」

      「戻って休みなさい」

    小新「はい」

    小新が下がった後も、静嬪は静かに針を動かし続けた。







    太皇太后の宮で、太皇太后と皇后、
    越貴妃が揃って香り袋を手にしていた。


    nirvana_in_fire_04_01_047.jpg


    太皇太后「この香りは気に入った」

    長公主「わたくしにも聞かせてくださいませ」

    太皇太后「どうだ?」

    長公主「香りも刺繍も素晴らしいですわ」

       「誰が作ったのです?」

    皇后「きっと静嬪でしょう」

    太皇太后「静嬪とな?」

      「あの子には、長いこと会うておらぬ」

    越貴妃「静嬪は、位が足りぬゆえ」

       「ご機嫌伺いに参っても、
        宮の外にいるしかないのです」


    nirvana_in_fire_04_01_048.jpg


    越貴妃「特別に招かれなければ、彼女は
        太皇太后にお目通りする栄誉には
        与れぬのですわ」

    太皇太后「静嬪は外におるのか?」

    越貴妃「ええ」

    太皇太后「早く、早く彼女を中に」

    皇后「はい」

    太皇太后「よろしい」

        「よき香りであろう?」

    莅陽長公主が頷く。

    その時、静嬪が部屋へと入ってきた。

    太皇太后の前まで歩み寄ると、跪いて口上を述べる。

    静嬪「太皇太后に拝謁いたします」


    nirvana_in_fire_04_01_049.jpg


    静嬪「太皇太后の長寿をお祈りいたします」

    太皇太后「挨拶はよい、よいから、さあ」

    長公主「お祖母さまは、貴女が作った香り袋が
        たいそうお気に召したようよ」

      「わたくしも見たけれど、宮廷のお針子が
       縫ったものより、ずっとよい出来だわ」

    静嬪「わたくしには、他に取り得もございませぬゆえ」

      「太皇太后や、各宮の妃嬪さま方に献じるため、
       ただこのように小さなものを作ることに
       心を尽くすことしかできませぬ」

      「ほんの小さな気持ちでございます」

    静嬪の言葉を聞きながら、
    太皇太后が満足そうに香り袋を眺め、頷いた。

    静嬪「長公主殿下」

    静嬪が、袂からもうひとつ香り袋を取りだすと
    莅陽長公主に差し出した。

    静嬪「これは殿下に差し上げるためにお作りしました」


    nirvana_in_fire_04_01_050.jpg


    長公主「わたくしにもくださるの?」

    静嬪「拙い出来ですが、長公主の
       お気に召すとよいのですが」


    nirvana_in_fire_04_01_051.jpg


    そう言って静嬪は、香り袋を乗せた
    莅陽長公主の手を握りしめた。

    静嬪の含みのある仕草に気付いた
    長公主が視線をあげたが、言葉を発することはなかった。


    nirvana_in_fire_04_01_052.jpg


    その時、香り袋を見つめたまま、太皇太后が
    ぼんやりしているのに気付いた皇后が声をかける。

    皇后「お祖母さま」
      「……お祖母さま?」

      「どうなさいました」

    呼び声に、はっと気付いた太皇太后が顔を上げる。

    老婦人は、乾いた笑いを洩らすと、静嬪を呼んだ。

    太皇太后「静嬪や。こちらへおいで」

        「そなたは賢く、手先が器用な子だ」

        「宮中での暮らしには慣れたか?」

    静嬪「太皇太后、お心遣いに感謝いたします」

      「万事平穏にて、慣れました」

    静嬪の答えに、太皇太后は満足そうに
    笑ったが、一瞬ののち、ふと表情を曇らせた。

    太皇太后「宸妃は、子を産んでからというもの、
         ずっと身体の調子がよくならぬ」

    太皇太后が口にした名に、皇后と越貴妃が
    視線をかわしたものの、沈黙を守った。

    太皇太后「そなたは医女だ」


    nirvana_in_fire_04_01_053.jpg


    太皇太后「林家がそなたを宮中へ遣わしたからには、
         ようようあの子の面倒を見なくてはならぬ」

    皇后「……お祖母さまはお疲れのご様子」

      「今はどこにも宸妃などという者はおりませぬ」

      「林楽瑶(リン・ユエヤオ)は逆賊の母、
       とうに死にました」

    太皇太后が目を見開く。

    太皇太后「宸妃が死んだだと?」

        「では景禹(ジンユ)は、私の可愛い曾孫は?」

        「あの子はどこにいるのだ?」


    nirvana_in_fire_04_01_054.jpg


    太皇太后「今日はなぜ来ておらぬ」

        「早く、早く、早くあの子をここへ呼ぶのだ」

    長公主「お祖母さま」

    皇后「お祖母さま」

    越貴妃「お祖母さま」

    取りみだす太皇太后にみなが駆け寄ったが、
    越貴妃は静嬪に気付くと叱責した。

    越貴妃「早くお下がりなさい」


    nirvana_in_fire_04_01_055.jpg


    越貴妃「そなたを入れるべきではなかったわ」

    静嬪「……はい」

    下がる静嬪に莅陽長公主が視線を送る。

    太皇太后「景禹や」

    越貴妃「太皇太后、大丈夫ですか?」
       「太皇太后」

    みなが呼びかけるが、太皇太后は
    ただひとつの言葉を繰り返すのみだった。

    太皇太后「私の曾孫はどこにいるのだ?」


    nirvana_in_fire_04_01_056.jpg










    関連記事

    Comment - 0

    Latest Posts

    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。