琅琊榜 第4話 (翻訳 2/2)

     22,2015 22:31
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    原題 : 琅琊榜 Nirvana in Fire
    英題 : Nirvana in Fire

    制作 : 侯鴻亮
    監督 : 孔笙 / 李雪
    主演 : 胡歌(フー・ゴー)/ 劉涛(リウ・タオ)/王凱(ワン・カイ)


    【あらすじ】

    4世紀中国の動乱のさなか、
    封建国家の渝と南部地方の梁の間で戦が起こる。

    梁の林燮(リン・シェ)将軍は、自身の十九歳の息子、
    林殊(リン・シュー)を戦に伴い、敵対する渝の軍を退ける。

    しかし、政敵が林燮将軍を罠に陥れ、それは
    将軍が率いる七万の赤焔軍の死を引き起こす惨劇となる。

    忠実な部下の助けでかろうじて命拾いし、
    生き延びた林殊は、江湖に江左同盟を設立。

    十二年の時を経て、宗主・梅長蘇(メイ・チャンスー)
    として、名を変え、立場を変え、姿さえ変えて都に戻る。

    渝軍が再び攻撃を仕掛けるとき、
    梅長蘇は、己が守るべき人々をどのように守るのか?



    (ご注意)

    ※英文字幕を、中文の助けも借りて日本語字幕にしたものです。
     中国語→英語の段階で意訳されているものが多々ある上、
     英語字幕自体、誤字脱字誤訳が多いため、元の内容と異なる
     可能性があります。意訳が著しい場合、中文を元にしています。

    ※セリフのほとんどに対応していますが、あくまで素人が
     趣味で訳したものなので、「ざっくり内容が知りたい」方向け
     です。正確さを求める方は、公式放送をお待ちください。

    ※素人翻訳ではありますが、転載・再利用などはご遠慮ください。

    楽しんでくださる方がいらっしゃれば、幸甚です。




    ++++++++++++++++++++





    侍女「静(ジン)嬪さま」
      「莅陽(リヤン)長公主さまがお見えです」

    奥の部屋で薬剤を扱っていた静嬪は、
    侍女の先触れの声を耳にすると、席を立ち、出迎えに出た。

    隣の間へ出ると、長公主がちょうど入ってくるところだった。


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    静嬪「長公主殿下にお目にかかります」

    静嬪が一礼すると、長公主は微笑を浮かべた。

    長公主「最近、なんだか背中にかゆみを覚えるのです」

       「御殿医には言いにくいし、
        侯府の医女の手当てではよくならなくて」

       「ちょうど貴女の宮の前を通ったので
        診ていただけないかと思いましたの」

    静嬪「さようでしたか」

    長公主の言葉に頷くと、静嬪は、侍女たちに外に出るよう促した。

      「そなたたちは外でお待ちなさい」

    侍女たち「はい」

    侍女たちが下がると、ふたりは奥の部屋に腰かけて話し始めた。

    長公主「静嬪さまは、あれほどの手間をかけ、
        わたくしに会いに来るよう伝える手紙を
        香り袋に忍ばせられた」

       「いったいなにごとなのでしょう」

    静嬪「わたくしは身分が低いゆえ、普段は
       長公主さまとお話しできる機会がございませぬ」


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    静嬪「長公主さま、どうぞお許しくださいませ」

    長公主「あなたは従来、落ち着いた方」

       「きっとそれなりの理由がおありなのでしょう」

       「どうぞおっしゃって」

    静嬪「わたくしが、厚かましくも
       長公主さまにおいでを願ったのは」

      「あるお酒のせいなのです」

      「『情絲繞』と呼ばれる強いお酒です」

    静嬪が口にした言葉に、長公主の表情が凍りついた。

    静嬪「あれがいったいどういうお酒なのか、
       この世の中で、おそらく長公主殿下が
       もっともよくご存じなのではないかと」

    長公主の脳裏に、遠い過去の記憶が蘇る。





    皇太后の白い手が、高い位置から盃に酒を注ぎ入れていた。


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    その様子を、帳の陰からそっと見守っている一人の男がいる。

    それは、若き日の謝玉(シェ・ユ)であった。


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    盃を手にした皇太后が、どこか思いつめた声で囁くように言った。

    皇太后「莅陽や。母のいうことを聞いてちょうだい」

       「さあ。このお酒をお飲みなさい」


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    盃を受け取ったのは、同じく若き日の莅陽長公主だった。

    何も知らぬ長公主は、母から渡された酒に素直に口をつける。

    その傍らで、皇太后は帳の陰に視線を送った。

    謝玉が黙って恭しく一礼する。

    ────長公主は、酒を飲み干した。


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    静嬪「寧国侯と長公主殿下とは、理想の夫婦、
       天の定めた一対だと言われておりますが」

      「けれど、過ぎ去りしこの幾歳、
       長公主さまの苦衷を、誰が本当に
       理解しえたことでしょう」

    長公主「ニ十年以上も前のことですわ」

       「それを今日持ち出したのは、
        何の意図があってのことなのです?」

    静嬪「わたくしがわざわざ往事を持ち出したのは
       長公主さまを悲しませるためではございませぬ」

      「ただ、偶然知ってしまったのです」

      「近いうちに宮中で、あの時、
       皇太后がなさったことを
       真似しようとする者がいることを」


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    静嬪「再び『情絲繞』を用いようとしているのです」

    長公主が目を見開いた。

    長公主「なんですって?」
       「それは誰なのです」

       「誰に用いようというのですか」

    静嬪「黒幕がいったい誰であるのかは、
       はっきりとはわかりませぬ」

      「ただし、誰に使うつもりであるのかは」

      「昨今の宮中での出来事を鑑みれば、
       長公主さまも、察しがおつきではございませぬか」

    静嬪の言葉に視線を泳がせた長公主が
    ぽつりと呟いた。

    長公主「……郡主」

    自分で漏らした言葉に、長公主がはっと顔を上げた。


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    長公主「霓凰(ニファン)郡主では?」

    静嬪が深く息を吐いた。

    静嬪「雲南穆府は十万の鉄騎を掌握しております」

      「その力は実に魅惑的なもの」

      「いずれの勢力もみな、郡主が都にいる間に
       彼女を自分の麾下に取りこもうと躍起になっています」

      「彼女を容易く雲南に戻らせはしないでしょう」

      「手段を選ばず、ことを成就させるのは
       後宮の者の最も得意とするところです」

      「長公主殿下」

      「わたくしには、既に手の打ちようがありませぬ」

      「この企みから郡主をお救いできるのは
       殿下だけでございます」

    切々とそう訴えると、静嬪は深く頭を下げた。


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    三人の子供たちが円の中で鍛錬をしていた。

    一通りの動きを終え、一列に並んだ三人に
    梅長蘇(メイ・チャンスー)が笑みを浮かべた。

    子供たちも笑顔で一礼する。


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    梅長蘇「まだ二日しか経ってはおらぬが、
        既にここまで熟達したとは」

       「大変素晴らしい」

    褒められた少年たちは、嬉しそうに笑みをこぼす。

    そのとき飛流(フェイリウ)が、黙って一歩、梅長蘇のほうへ進み出た。

    期待に満ち満ちた目で、じいっと梅長蘇を見つめる。


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    梅長蘇「……飛流の指導も、素晴らしい」

    期待通りの言葉を得た飛流は、満面の笑みを
    浮かべると、得意げに頷いた。

    飛流「うん!」

    そこへ、侯府の家人がやってくると客人の来訪を告げた。

    家人「蘇先生、靖(ジン)王殿下がおいでです」

    その言葉を聞いて、梅長蘇が飛流に言った。

    梅長蘇「彼らを連れて、遊びに行っておいで」

    飛流は頷くと、少年たちを促した。

    飛流「いこう!」

    少年たちは、飛流のあとについて歩きだしたが、
    一番最後についた庭生(ティンシェン)が、
    立ち去り際、ふと歩みを緩め、微かな笑みを浮かべた。


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    庭生が笑みを向けた相手は、
    ちょうどその場に姿を見せた靖王だった。


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    庭生の笑顔を認め、その姿を見送った靖王は、
    黙って梅長蘇に歩みよる。

    梅長蘇も何も言わず、笑顔でただ一礼した。


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    梅長蘇「靖王殿下は、いまだお心安らかとは
        いかぬようですね」

       「ご自身で、庭生の様子を確かめに
        いらっしゃるとは」

    茶を淹れた梅長蘇は、茶器を手に立ち上がると
    窓際に立っていた靖王に差し出した。

    靖王は茶器を受け取りながら口を開く。


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    靖王「……そなたはとうに私の来訪を予測していたはずだ」

    靖王のどこか皮肉めいた言葉にも
    梅長蘇は静かに笑みを浮かべたのみだった。

    靖王「数日前、宮中で人々を驚かせたという
       先生の振る舞いは、私も既に聞き及んでいる」

      「先生の来歴についてもおおよそは耳にした」

    梅長蘇「そうですか」

       「では、殿下は何をお聞きになられたのです?」

    靖王「私は常に軍営に身を置いており、
       朝廷の中枢からは離れていたゆえ、事情には疎い」

      「先生が太子や誉王と親交があることも知らなかった」

      「まことに失敬」


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    そう言って皮肉まじりに茶器を掲げてみせた
    靖王に、梅長蘇は静かに口を開いた。

    梅長蘇「太子と誉王は、お二方とも
        我が友というわけではございませぬ」

       「彼らはただ私を、幕僚として招き入れたいだけです」

    靖王「郡主の話を聞いたところによると」
      「江左の梅郎は奇才の持ち主とか」

      「しかし、一介の策士に甘んじるつもりとは
       思いもよらなかった」

    梅長蘇「一介の策士となることが、
        何かいけないことでしょうか?」

       「人に頼りにされ、功を立てて業績を残す」

       「ひとたび成功すれば、朝廷で官職を得て
        後世に名を残すことも出来ましょう」

    靖王「では先生は」

      「太子か、それとも誉王か、
       どちらを選ぶおつもりなのか?」


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    梅長蘇「私は、あなたを選ぶつもりです」

    虚を突かれた靖王がゆっくりと振り向く。

    梅長蘇はただ静かな眼差しを彼に向けていた。

    靖王の双眸が微かに見開かれる。

    梅長蘇「靖王殿下、あなたを」

    靖王「……私を選ぶだと?」

    予想しなかった返答に、表情を強張らせた
    靖王だったが、やがてふっと息を吐き、

    くつくつと喉の奥で笑ったかと思うと、
    それはそのまま高い笑い声に変じた。

    首を振って、卓の前に座る。

    靖王「私を選ぶ、か」


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    靖王「先生には、見る目がないとしか思えぬ」

    梅長蘇も靖王の向かいに腰を下ろした。

    靖王「私の母は、後宮において嬪の位でしかない」

      「力となる高官の外戚もない」

      「私は三十一になるが、いまだ親王にすら封じられておらぬ」

      「生まれてこの方、無骨な軍人たちとしか付き合いもない」

      「朝廷の三省六部には何の人脈も持ってはおらぬ」

      「私を選んだところで、何ができるというのだ」

    梅長蘇「殿下を取り巻く環境が
        不利なものであることは存じております」

       「しかし私には、既に他に選択肢はないのです」


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    屋敷の中から、家令が慌てて飛び出してくる。

    家令「長公主殿下のおいでとは知らず、失礼いたしました」


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    家令「ただ、穆王と郡主は、本日は朝早くより
       都の外の荘園に出向いておられまして」

      「戻られるのは明日になります」

      「長公主殿下におかれては、何かご用事でも
       ございましたか、それとも……」

    長公主「戻りは明日ですか……」

    家令「はい」

    長公主「たいした用ではありませぬ」

       「通りかかったので、寄ってみたまでです」







    靖王「この金陵の都にはいま」


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    靖王「東宮太子と、七珠の親王とがいる」

      「朝廷の中で、将来の皇位が、確実に
       彼らのうちどちらかの手に渡るで
       あろうことを、知らぬ者などあろうか」

    梅長蘇「この世において、確実であればあるほど、
        成し遂げる目標としてはつまらぬものです」

    そう言いながら梅長蘇は、
    靖王の茶器に茶を注ぎ足そうと急須を伸ばした。


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    しかし、茶器を握りしめたまま、真摯な瞳で
    まっすぐに自分を見つめている靖王に気付くと、
    ふっと笑みを浮かべて急須を下げた。

    自分の器に茶を注ぎながら、話を続ける。

    梅長蘇「もし私ひとりの力で、みなが思いもよらぬ
        人物を玉座に座らせることができれば」

       「そのほうが、より私の能力を
        示すことにはなりませぬか?」

    靖王が小さく鼻を鳴らした。

    靖王「世間の奇才と呼ばれる者たちはみな、
       そのような変わった考えを持つものなのか」

    梅長蘇「靖王殿下」
       「正直なところ」


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    梅長蘇「あなたは本当に、玉座が彼らふたりのうち
        どちらかの手に落ちるのを、甘んじて
        見ておられるおつもりなのですか?」

    梅長蘇の問いに、靖王はしばらく
    空を睨んでいたが、やがて振り向くと低い声で答えた。

    靖王「……先生がこの都に、ことを起こしに
       来られたからには」

      「きっと、とうに準備万端整っているのだろう」

      「私のことについてもおそらくは
       既に隅々まで調べがついているはず」

    梅長蘇「ご明察の通り」

       「麒麟の才と呼ばれる者が、
        主を選ぶのに盲目でいられましょうか」

       「無論、調べました」

    梅長蘇があっさり肯定すると、靖王は視線を逸らし、深く息を吐いた。

    靖王「……私が皇位に就くことは」

      「実際、雲を掴むような話で、考えることすら無益だ」


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    靖王「しかし、そなたがもし本当に、太子と
       誉王の至尊の位への道を断てるのならば」

      「私は、いかなる代価でも喜んで払おう」

    梅長蘇「庭生を救い出したことは、殿下への
        ほんのご挨拶代わりの贈り物です」

       「もしご満足頂けたなら」
       「今日を以て、盟約の成立としたいのですが」

       「いかがでしょうか?」

    梅長蘇の言葉に、得心がいったというように
    何度か小さく首肯した靖王の目にはしかし、
    わずかに嫌悪の色が滲んでいた。

    靖王「このために、庭生を救ったのだな」

    梅長蘇「そうです」


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    靖王「私について調べたのなら、知っているはずだな」

      「生来、私が最も好まぬものは、
       そなたのような者だ」

      「すべて計算の上で動くような人間だ」

      「将来、私が皇位に登るのを助けたとしても」

      「必ずしも多大な栄華恩寵を得られるとは限らぬ」

      「それでも気にせぬというのか?」

    梅長蘇「その日までの道のりは長い」

       「それについては今後、殿下と交渉する
        機会もあるでしょう」

       「私が重視しているのは、殿下の心根です」

       「そこが、あのお二人とは決定的に違う」

    靖王が怪訝そうな視線を向けた。


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    靖王「そなたと私とは、お互い全く面識がなかったはず」

      「私の心根がどんなものか、
       どうして知りえるというのだ」

    梅長蘇「これは私にとって、ひとつの賭けだと
        思ってくださって結構です」

       「今いる幾人かの皇子たちのなかで」
       「第三皇子はお身体が不自由でいらっしゃる」

     (※身体に障りがあると皇帝になれない)

       「第六皇子は大志を抱いてはおらず」
       「第九皇子はまだ幼すぎる」

       「さきほど既に申し上げたように」

       「殿下の条件がよくないとはいえ、
        しかし私には、他に選択肢はないのです」


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    梅長蘇の説明に、靖王はじっと考え込んだ。







    寧国侯府。

    謝玉は自らの書斎で、配下の報告を聞いていた。

    謝玉「長公主が宮殿を出てから、わざわざ
       穆王府を訪ねたというのか?」

    家人「さようです」


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    家人「ただ、郡主と穆王は、不在だったようで」
      「長公主殿下も中には入られませんでした」

    謝玉「下がるがよい」

    家人「はい」







    蝋燭を片手に、三人の少年たちが共に眠る
    部屋へとやってきた蒙摯は、庭生の傍らに
    座ると、その寝顔に見入った。


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    背後を振り返り、戸口近くに立っていた梅長蘇と頷きをかわす。

    梅長蘇が、黙って外へと促した。

    ふたりは梅長蘇の自室へ戻り、改めて腰を下ろす。

    蒙摯が口を開いた。

    蒙摯「……庭生が祁(チ)王の遺児だというのは、
       確かなのか?」

    梅長蘇「あの当時、祁王府内の男子はみな死罪に処せられ」

       「一族の女人はみな掖幽庭へ入れられた」


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    梅長蘇「庭生は、年齢から言っても」

       「靖王が彼のことをあのように
        気にかけることからしても」

       「間違いないと思う」

    蒙摯「しかし私の知る限り、掖幽庭に送られた
       女人たちは、おおよそは身元が知られているはずだ」

      「そして一年にも満たぬ間に、
       そのほとんどが死に追いやられた」

      「孤児がひとりで生き延びるのは、
       容易なことではなかろう」

    梅長蘇「その時の仔細については、
        私にも推し測る術はないが」

       「ただ、祁王妃は、聡明で忠義心の強いお方だった」

       「当時の混乱した状況を利用して」

       「景禹(ジンユ)哥哥の残した、たったひとりの
        血脈を、命をかけて守った可能性は有り得る」

     (※哥哥:兄、もしくは親しい年上の男性に対する呼称)

    蒙摯が沈痛な面持ちで頷く。

    蒙摯「見たところ、あの子の顔には、確かに面影がある」


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    蒙摯「いや、なんであれ、天が見ているだろう」

      「そう言えば五年前、そなたが最初に
       人を寄こして連絡してきた時も、
       とても信じられなかった」

      「小殊」

      「あの当時、何があったのか
       そなたはずっと、仔細を話そうとはしないが」

      「しかし、私にもわかっている」

      「常人ではとても耐えきれぬほどの苦難を
       経験したのでなくば」

      「そなたの容貌も、ここまで変わって
       しまうことはなかっただろうとな」

    梅長蘇「……こうして生き延びたからには」
       「この生を、けして無駄にはしない」


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    霓凰が自室で文に目を通していると、
    穆青がやってきた。


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    穆青「姉上。夜の鍛錬は終わりました」
      「まだ他に何かやることは?」

    霓凰「ないわ」
      「汚れを落として、早く寝なさい」

    しかし穆青は、おもむろに姉の前に腰を下ろした。

    穆青「なあ姉上……」
      「やはりまだ気がかりなんだ」

      「蘇哲は、三人の子供だけに任せて、
       本当に百里奇(バイリ・チ)を倒せるんだろうか?」

    霓凰は、ふっと笑みをもらしたのみで
    再び文に目を落とした。

    穆青「姉上、なんとか言ってください」

      「様子を見に行ったんじゃないんですか?」


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    穆青「その剣陣とやらはいったい、
       役には立ちそうなのですか?」

    霓凰「どのような剣陣だろうと」

      「三人の幼い子供で百里奇を倒そうというのは、……」

    霓凰はそこで言葉を切ると、笑って首を振った。

    霓凰「彼の自信がどこから来るのか、
       私にもわからないわ」

    穆青「それでは駄目じゃないか」

      「彼が倒せなければ、姉上が
       ご自分で戦わなくてはいけなくなる」

      「私が彼に聞きに行く!」

    勇んで部屋を出て行こうとした弟を、郡主が一喝する。

    霓凰「待ちなさい!」
      「あなたはなぜそういつも考えなしに動くの」

    穆青「私は……!」

    霓凰「安心なさい」

      「もし本当に百里奇と一戦交える必要が
       あったとしても」


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      「私もやすやすと負けるつもりはないわ」







    蒙摯「つまりそなたは、靖王を助けたいというのか?」


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    蒙摯「靖王は生来、権謀術数には向いていない」

      「そして、権力争いを嫌悪している」

      「更に加えて彼は、信念を曲げるくらいなら、
       叩き折られたほうがましというくらいの、頑固な性格だ」

      「皇位を争うのがどれほど危険なことか」

      「彼のあのような性格で、どうやって
       太子や誉王のような、無慈悲で強力な
       敵に勝てるというのだ」

    靖王をして皇位を競わせる無謀さを諭そうとする
    蒙摯に、梅長蘇はあっさりと言い放った。

    梅長蘇「彼には私がいる」

       「そういった、裏の血なまぐさいことは
        私が引き受ける」

       「悪辣な輩を倒そうとすれば、無辜の人間をも
        傷つけることは避けられぬ」

       「時には、彼らの心臓に、無慈悲に剣を
        突き付けねばならぬ時もあるだろう」

       「そういった痛み苦しみや罪科は、
        靖王には耐えられぬ」

       「だから私がその荷を背負う」


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    夜更けの国侯府。
    侍女たちが、長公主に外套を着せている。


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    長公主「弼は?」

    侍女「誉王府で宴があり、まだ戻っておられません」

    長公主「もし息子たちが機嫌伺いに来たら」

       「私は既に休んだと言いなさい」

    侍女「はい」

    最後に侍女が頭巾をかぶせた。

    長公主はひとり提灯を手に、あたりを憚るように部屋を出る。

    勝手知ったる侯府の中を、月明かりと
    提灯だけを頼りに歩いて行く。


    nirvana_in_fire_04_02_040.jpg


    そして彼女は、侯府の中の離れへとやってきた。







    離れの中では、蒙摯が梅長蘇を制するように
    無言で片手を上げた。

    ふたりは、怪訝そうに顔を見合わせる。

    部屋の戸口まで来た長公主は、扉を叩いた。

    蒙摯と梅長蘇は揃って席を立つと扉に近づく。


    nirvana_in_fire_04_02_041.jpg


    梅長蘇「どなたですか?」

    扉の内側から、梅長蘇が誰何した。

    長公主「深夜にお邪魔したこと、
        蘇先生にはどうぞお許し願います」

    声の主を察した梅長蘇と蒙摯は、再び顔を見合わせた。

    長公主「少し中に入れていただけませんか」







    梅長蘇「長公主殿下がおっしゃったことは
        確かに心配です」


    nirvana_in_fire_04_02_042.jpg


    迎え入れた長公主と向き合って座っていた
    梅長蘇が、口を開いた。

    その場には、むろん蒙摯の姿はない。

    梅長蘇「ただ一点、私にはわからぬことがあるのですが」

       「長公主殿下のご身分を以てすれば」

       「この陰謀を阻止する方法はたくさんあるはず」

       「なにゆえ私のところへ来られたのですか?」

    長公主「方法がたくさんある……?」

    梅長蘇の言葉に、長公主は自嘲気味に首を振り、
    ため息をついた。


    nirvana_in_fire_04_02_043.jpg


    長公主「そうとも限りません」

       「私には何の証拠もなく、誰の企みなのか
        名指しで証言することは叶いませんし」

       「皇帝陛下に申し上げることも出来ず」

       「夫や子供たちを渦中に巻き込むことも出来ませぬ」

       「自ら宮殿に赴き、計画を阻もうにも
        その者たちがいつ行動に出るのかは
        誰にもわからない」

       「わたくしのこの長公主という身分は」
       「ほとんど何の役にも立たぬのです」

    梅長蘇「……わかりました」


    nirvana_in_fire_04_02_044.jpg


    梅長蘇「長公主殿下は、私に何をお望みですか」

    梅長蘇の承諾を得て、長公主は微かに安堵の色を浮かべた。

    長公主「先生が北燕と交わした五日後という
        期日は、明日です」

       「宮中では郡主にお会いになるでしょう」

       「どうかこのことを郡主にお伝えください」

       「後宮の方々と接触する時は、くれぐれも
        用心なさるようにと」


    nirvana_in_fire_04_02_045.jpg


       「郡主の聡明さと機転を以てすれば、
        きっとおおごとにはならずに済むでしょう」







    その頃、書斎を出た謝玉は、家人の先導で、
    長公主の部屋を目指していた。


    nirvana_in_fire_04_02_046.jpg


    それを目にした長公主付きの侍女が慌てふためいて部屋に戻った。

    侍女「紫熙姐姐、どうしたらいいの?」

      「長公主さまは、侯に外出を知られては
       ならぬとおっしゃったわ」

    紫熙「侯は、普段はこんなに早く書斎を
       お出になることはないのに」

    そこへ、のんびりとした老女の声がかかった。

    斉「そなたらふたりはまこと、ひよっこだのう」

    侍女「斉さま」

    斉「些細なことで、そのように慌てるなど」


    nirvana_in_fire_04_02_047.jpg


    斉「おいでになったら、私が侯にお会いしよう」

    侍女「はい」







    謝玉が長公主の部屋へとやって来ると、
    戸口に立つ侍女の斉に声をかけた。

    謝玉「長公主は休んだか?」

    斉「侯、どうかお待ち下さい」


    nirvana_in_fire_04_02_048.jpg


    中に入ろうとした謝玉を、斉が一礼して押し留める。

    謝玉「どういうことだ?」

    斉「侯にはどうかご理解くださいますよう」

     「長公主殿下は、今日はご気分が優れませぬ」

     「どなたにもお会いになりたくないとの由、
      仰せつかっております」

    謝玉「私にもか?」

    斉「どうか無礼を申し上げることをお許しくださいませ」

     「長公主殿下が今、最もお会いに
      なりたくないのは、侯でございます」

    謝玉「無礼な!」
      「何を馬鹿なことを言っておるのだ」

    斉「私は死に値いたします」

     「ただ、今日長公主殿下は、宮殿で
      太皇太后にお会いになり」

     「うっかり、先の皇太后の宮に
      足を運ばれたようでございまして」

    先の皇太后、という言葉に、謝玉の表情が強張る。


    nirvana_in_fire_04_02_049.jpg


    斉「古い昔のことを思い出され、
      一時、気持ちが高ぶっておいでなのです」

     「侯には、お分かりいただけるかと存じます」

    謝玉の脳裏に、遠い過去の記憶が去来する。

    先の皇太后の白い手。

    盃を干す若き日の長公主の姿。

    そして、それを帳の陰から見ていた自分────。







    梅長蘇「このことは、私が責任を持って
        お引き受けいたします」


    nirvana_in_fire_04_02_050.jpg


    梅長蘇「長公主殿下、どうかご安心ください」
       「殿下のお言葉は、必ずお伝えいたします」

    長公主「それでは、先生にお願いいたします」
       「これで失礼しますわ」

    そう言って軽く会釈すると、長公主は踵を返した。







    長公主の部屋の前で、しばし考え込んでいた
    謝玉は、やがて感情の汲み取れぬ声で告げた。

    謝玉「長公主がもう休んだというのなら」
      「あとはそなたたちに頼む」

    斉「はい」

    謝玉が踵を返すのを、中にいた若い侍女たちは、
    固唾をのんで見守った。


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    長公主は、建物の外の回廊まで出ると、
    そのまままっすぐ自室へと戻って行った。

    梅長蘇は回廊で一礼して長公主を見送ると、
    急いで自室へと戻る。

    別室に身を潜めていた蒙摯が、彼を出迎えた。

    蒙摯「いったいどんな輩なんだ?」
      「背後で、かように卑劣なことを企むとは」


    nirvana_in_fire_04_02_052.jpg


    梅長蘇「もし皇后でなければ、越貴妃だろう」
       「明日になれば分かる」


    nirvana_in_fire_04_02_053.jpg


       「誰が郡主を後宮へ招くのか」







    第5話へ続く









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    Comment 6

    2015.12.23
    Wed
    06:26

    ペンペン 

    URL

    胡歌さん、凄い!(当然?)

    響さん、今日は。

    今年の「国劇盛典」(ドラマ賞)の最優秀男優賞、胡歌さんでした。
    胡歌さん、おめでとうございます。

    「琅琊榜」のツィ見てると、ハングルのがいっぱい。
    韓国でも人気なんですね、この作品。

    自国以外でも愛されているって、役者冥利に尽きるでしょうね。

    失礼しました。

    編集 | 返信 | 
    2015.12.24
    Thu
    19:54

    響 

    URL

    To ペンペン さま

    ペンペンさま、こんにちは!

    最優秀賞とは、胡歌さん、すごいですね!
    いや、すごいというか当然と言うか(笑)

    彼は私の中でも、自国他国含め、三本指の
    役者さんです。本当にすごい。

    琅琊榜の掲示板を見ていると、彼は本当に
    世界中で愛されていますね。

    来年は少し休養を取るそうですが、十分に
    充電して頂いて、パワーアップして帰って
    きてほしいです☆

    編集 | 返信 | 
    2015.12.25
    Fri
    00:27

    ゆら 

    URL

    No title

    v-22響さま こんばんは!

    靖王の性格ゆえに、梅長蘇は事を成し遂げるまで真実を
    告げられないのでしょうね。
    祁王の遺児 庭生を救い出し、果ては靖王を帝位に。
    靖王の梅長蘇を見る目はまだまだ懐疑的。
    縦糸横糸キレイに織りあがっていく物語が楽しいです。

    胡散臭い謝玉役の方「他來了」や「偽装者」にも出て
    いて、他のドラマでも非常に怪しい役どころ。
    長公主の過去と郡主にこれから起こる危機、いろいろ
    梅長蘇頑張れ!ですね。

    25日のチャットに向けて、年末のあれこれ片づけて
    いたら、なかなかブログに来られずにいました。
    クリスマスというと…
    もう一昨日ですけど、12月23日に15.12.23という
    消費期限のクリスマスケーキを頂いて、あせった
    我が家ではみんなで美味しく完食。
    クリスマスケーキと書いてあると、日付に「?」と
    なるけど、食べちゃったあとで落ち着いて考えると
    生ケーキって消費期限は購入日だから普通のこと。
    うちのクリスマスはほぼ終了です。

    編集 | 返信 | 
    2015.12.25
    Fri
    20:27

    響 

    URL

    To ゆら さま

    ゆらさま、こんにちは☆

    靖王に知られると、いろいろ計画に障りは
    出そうですよね(。・ω・) 基本的に嘘つくの
    下手そうなので、あっという間に、周りに
    正体がバレそうだし(。-ω-)

    しかし、梅郎の庭生を助け出す手際が鮮やか
    過ぎてもう(笑) そして、靖王の猜疑心に
    満ちた眼差しが痛いです。。。切ない。

    って、謝玉の方、他来了に出てたんですか!
    Σ(。・ω・) まったく気付きませんでした。
    何の役だったんだろ……(笑)

    お片付けお疲れさまです☆ 年末はなぜか、
    忙しいですよねー。わたしも、特に何を
    するわけでもないのに忙しい……(。-ω-)

    クリスマスにケーキ食べると、なんだか
    ちょっとほっとしませんか(笑) 今年も
    無事一年を過ごしました、的な(。・ω・)

    うちもチキンとケーキ食べて、クリスマス
    はほぼ終了です(^ω^) ていうか、あと
    一週間で新年ですよ! なんかびっくり。
    来年もよろしくお願いします☆

    編集 | 返信 | 
    2015.12.28
    Mon
    19:02

    naomama 

    URL

    ありがとうございます!

    詳しいあらすじありがとうございます。王良王邪木旁にすっかりはまってしまって、DVDを買って毎日のように見ているんですが、なんせ中国語がさっぱりわからないので、雰囲気しかわからないのですが、こちらにお邪魔して、色々とよくわかりました。ありがとうございます!明日から、仕事も休みなので、明日は、家事はお休みの日にして、ドラマ三昧しようと今からワクワクしています。

    編集 | 返信 | 
    2015.12.29
    Tue
    23:37

    響 

    URL

    To naomama さま

    naomamaさま、こんにちは☆

    初めまして……ですよね(。・ω・)たぶん。
    ようこそ、このような地の果てのブログに
    遊びにきて下さってありがとうございます♪

    琅琊榜、ほんとに面白いですよねー。人生
    でも、三本指のドラマです。

    あの、ひとつお聞きしたいことがありまして、
    もしよかったらお答えいただきたいのですが、
    DVD、中文字幕って消せますか?(。・ω・)

    わたしも、日本で発売されたら買う予定で
    いるのですが、今現在、翻訳のキャプチャ
    用に、中国版も買おうか迷っていて……。
    よかったら教えてください(。・ω・)ノ

    ドラマ三昧もいいですね! 日頃のお疲れを
    存分に癒してくださいねー(^ω^)

    よかったら、また遊びに来てください♪

    編集 | 返信 | 

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