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    琅琊榜 第1話 (翻訳 1/2)

     20,2015 17:17
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    原題 : 琅琊榜 Nirvana in Fire
    英題 : Nirvana in Fire

    制作 : 侯鴻亮
    監督 : 孔笙 / 李雪
    主演 : 胡歌(フー・ゴー)/ 劉涛(リウ・タオ)/王凱(ワン・カイ)


    【あらすじ】

    4世紀中国の動乱のさなか、
    封建国家の渝と南部地方の梁の間で戦が起こる。

    梁の林燮(リン・シェ)将軍は、自身の十九歳の息子、
    林殊(リン・シュー)を戦に伴い、敵対する渝の軍を退ける。

    しかし、政敵が林燮将軍を罠に陥れ、それは
    将軍が率いる七万の赤焔軍の死を引き起こす惨劇となる。

    忠実な部下の助けでかろうじて命拾いし、
    生き延びた林殊は、江湖に江左同盟を設立。

    十二年の時を経て、宗主・梅長蘇(メイ・チャンスー)
    として、名を変え、立場を変え、姿さえ変えて都に戻る。

    渝軍が再び攻撃を仕掛けるとき、
    梅長蘇は、己が守るべき人々をどのように守るのか?



    (ご注意)

    ※英文字幕を、中文の助けも借りて日本語字幕にしたものです。
     中国語→英語の段階で意訳されているものが多々ある上、
     英語字幕自体、誤字脱字誤訳が多いため、元の内容と異なる
     可能性があります。意訳が著しい場合、中文を元にしています。

    ※セリフのほとんどに対応していますが、あくまで素人が
     趣味で訳したものなので、「ざっくり内容が知りたい」方向け
     です。正確さを求める方は、公式放送をお待ちください。

    ※素人翻訳ではありますが、転載・再利用などはご遠慮ください。

    ※蛇足ですが、琅琊榜の読みは、『ランヤバン』です。

    楽しんでくださる方がいらっしゃれば、幸甚です。


    ※戦の描写、血なまぐさいシーンのキャプチャがあります。
     苦手な方はお気をつけください。




    ++++++++++++++++++++





    世に、琅琊閣あり。

    この世でもっとも神秘的な場所であり、
    同時にもっとも世界に開かれた場所。

    曰く、相応の対価を支払えば、どのような質問にも正確な答えが得られると。

    年に一度、琅琊閣は各分野の番付を公表する。

    天下で武芸に秀でた者十選、才智に長けた者十選、
    富豪十選、美女十選、公子十選。等。



    ────人はそれを、琅琊榜(ランヤバン)と呼ぶ。





    ++++++++++++++++++++







    空が赤く燃えていた。

    むせかえるような血の匂いと、立ちこめる砂埃、馬の嘶き。

    「殺せ!」

    鬨の声が上がる。

    「殺せ!」

    それは、戦ではなく、殺戮だった。

    大勢の兵たちが、次々と容赦なく殺されていく。

    倒れるのはみな、赤焔軍のものたちだった。


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    大地は彼らの屍で埋まり、その血を吸って紅に染まる。


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    赤い戦旗が、なお赤い炎に飲み込まれていく。

    旗に書かれた文字は────『林』。


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    少年の目の前で剣が一閃した。

    「林殊!」


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    すんでのところでかわした少年────
    林殊(リン・シュー)は、自分の名を呼び、
    剣を振るった男を睨み上げる。


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    その瞬間、林殊の眼裏に、
    炎を背にした男の姿がまざまざと刻みつけられた。

    赤焔軍の軍旗が燃え落ちる。


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    林殊「父上」

    崖にぶら下がる格好で上を見上げた少年が、崖の上から
    かろうじて自分の手を繋ぎとめている父を呼ぶ。


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    林燮(リン・シェ)
      「小殊……」
      「生き延びよ」


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      「赤焔軍のために」
      「生き延びるのだ……!」

    林殊「父上」

    崖の上は地獄。
    崖の下も────地獄。

    血糊で満足に目も開けられぬ中、少年は必死に父の名を呼ぶ。
    さながら祈るように。

      「父上」

    だが、少年の祈りは届かなかった。
    林燮は息子の手を離す。


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    林殊「父上……!」


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    父を呼ぶ声だけを残し、林殊は底の見えぬ深い谷底へと落ちていった。





    夢から覚めた男は、飛び起きるように半身を起した。


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    こぼれる息は荒い。

    手には、古びた腕環が握られている。

    腕環に刻まれた文字は、『林』。


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    男は、手にした腕環を、関節が白くなるほど握りしめる。

    そうしてわずかに顔を上げると、ぎらついた目を空(くう)に向けた。


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    一羽の白い鳩が飛んでいる。

    広い河を越え、急峻な崖の谷間を抜け、
    虹を作る滝を通り過ぎていくと、


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    やがて、山間の小さな楼閣に舞い降りた。

    鳩の世話に従事する少年が、止まり木で
    休む鳩を抱き下ろす。

    そして、その足にくくりつけられた、小さな
    書簡を取り外すと、別の少年が持つ盆に乗せた。

    たくさんの鳩から回収した書簡を、
    少年が運んでいく。


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    少年は、幾人かの人々が机に向かって作業を
    している部屋へ入ると、一番奥まった場所にいる
    男に盆を届けた。

    男は手にした筆を置き、運ばれてきた書簡を開く。

    書簡の内容を確かめた男は、さらに別の部屋へと足を運んだ。

    奥で絵筆を取っている人物の前までやってくると、一礼する。


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    男「少閣主」
     「たった今、北燕よりの書簡を受け取りました」

    少閣主と呼ばれた男──この琅琊閣の若き主である
    藺晨(リン・チェン)は、描きかけの絵に
    視線を落としたまま尋ねた。

    藺晨「何か、今すぐ私が知らねばならぬ
       ようなことでも書かれていたか?」

    男「北燕が、第六皇子を皇太子として冊立したと」

    その言葉を聞くと藺晨は手を止め、顔を上げた。


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    藺晨「既に太子になったというのか?」

    男「さようです」

     「金陵に知らせを送ったほうがよろしいでしょうか?」

    藺晨「無用だ」

      「梁の使臣は既に北燕へ向かう途上にある」

      「都にいる皇子たちも、すぐに知ることになろう」

      「保管しておけ」

    男「はい」

    男が一礼して下がると、藺晨は微かな笑みを浮かべ、
    興味深そうにつぶやいた。

    藺晨「彼は本当に成し遂げたのか」







    閣主の御前を下がった男は、たくさんの抽斗が
    並ぶ壁の前に立ち、ひとつの木札を押した。

    すると、抽斗がひとつ、手前に押し出される。


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    男はその中にさきほどの書簡を入れると、
    元通りに抽斗をおさめた。

    もう一度木札を押すと、中でからくりが動き、
    抽斗におさめられた書簡は自動的に
    地下にある膨大な保管庫へと運ばれていく。


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    梁の旗をひらめかせた使臣の一団が、
    梁の国境を越えていく。


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    旅籠についた使臣は、宿の男の出迎えを受ける。

    男「徐大人、はるばる北燕へお越しになり、
      さぞやお疲れになったことでしょう」

      (※大人:目上に対する敬称)

     「どうぞお入りください」

    門をくぐった徐大人は、目の前に立つ人物に気が付くと
    驚いて笑顔を浮かべた。

    徐大人「朱大人!」

       「よもやこのように遠く離れた旅の宿で、朱大人に
        お会いすることができるとは思いませんでした」

       「これぞ天のお引き合わせ」

    そう言って徐大人が頭を下げると、朱大人は黙したまま
    ただ笑みを浮かべ、そっと脇に退いた。

    朱大人が道を開けると、奥の部屋に、
    男がひとり座しているのが見える。


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    顔を上げ、正面の男の姿を認めた徐大人は、目を剥いた。


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    慌てて駆け寄ると、跪き、深々と頭を下げる。

    徐大人「誉王(ユワン)殿下に、拝謁いたします」

    奥の座敷に座していたのは、梁の第五皇子であり、
    誉王に封じられた蕭景桓(シャオ・ジンファン)だった。


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    梁の皇宮。

    愛妾を連れて、皇帝が執務室の玉座につく。
    室内には、皇后も控えていた。

    内官「陛下にご報告申し上げます」

      「早馬が参り、誉王殿下の江左の巡視に
       ついて、最新の上奏が届いております」

    報告を聞いた、梁の皇帝──
    蕭選(シャオ・シュアン)が、内官に命じる。

    皇帝「こちらへ持て」

    届けられた報告書に目を通し、
    皇帝は満足そうな笑みを浮かべる。


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    誉王の養母である皇后・言(ヤン)氏が口を開いた。

    皇后「今回、景桓は陛下に代わっての江左の巡察で
       尽力したようです」


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      「おそらく、皇子たちの中でこのような任を
       こなせるのは、誉王をおいて他におりますまい」

    そこへ、太子の生母である、貴妃・越(ユエ)氏が口を挟んだ。

    越貴妃「そうとも限りませんわ」


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       「太子殿下は都にいるとはいえ、
        少なからず陛下に代わって、
        陛下のお悩みをお助けしております」

    また始まったとばかり、皇帝は書状に
    目を落としたまま、無言で眉をあげた。

    皇后「来月は、太皇太后の生誕の祝いがございます」
      「誉王も都に戻るべきではありませんか?」

    皇帝は頷いた。

    皇帝「あれは既に帰途にある。間に合わぬことはなかろう」

      「今回、景桓は江左巡視の任をよくこなした」

      「戻ったら、褒美として王珠をふたつ下賜するとしよう」

    皇后は満足げな笑みを浮かべ、
    越貴妃は面白くなさそうに視線を逸らした。







    東宮殿。


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    内官「陛下は、誉王が戻ったら、王珠を
       ふたつ下賜すると仰ったそうです」

    太子「私は太子に冊封されて六年になる」


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      「今になって、王珠を七つも持つ皇子が出てくるとは」

    そう呟くと、東宮太子である
    蕭景宣(シャオ・ジンシュアン)は、眉をひそめた。

      「此度の父皇の平手打ちで、はっきり分かった」
      「私は、一歩たりとも退くことは出来ぬと」

      「誉王のもとへ送り込んだ者からの知らせは
       まだ来ておらぬのか?」

    臣下「知らせはまだ来ておりません」
      「結果がどうなったのかはわかりませぬ」







    徐大人「殿下がお尋ねになりたい事案について、
        臣は既に調べてございます」


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       「燕帝の成人した皇子たちのうち、第六皇子だけが
        まったく後ろ盾を持っておりませんでした」

       「彼の立場は最も弱いものだったのです」

       「しかしながら、誰も予想しえなかったことに」
       「最終的に、東宮の位を得て太子となったのは彼でした」

       「このことは、人々にとって法外な出来事だったのです」

    誉王「第六皇子は、いったいどのような手段でそれを成し得たのだ?」

    誉王の問いに、徐大人は一呼吸置いてから答えを口に乗せた。

    徐大人「……第六皇子は、自ら琅琊閣に出向いたそうです」

    茶を飲んでいた誉王の手が止まる。


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    徐大人「そして、錦の袋をひとつ、手に入れたとか」

    誉王が、ゆっくりと茶碗をおろした。

    誉王「それはいわゆる、世に知らぬことはなく
       明らかに出来ぬことはないという、
       あの琅琊閣のことか?」

    徐大人「さようです」







    宿の男が廊下を歩いていると、
    突然横から突き出した小柄に首を刺された。


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    声を立てることすら叶わず、
    そのまま物陰に引きずり込まれる。


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    誉王「北燕の第六皇子が手に入れた錦の袋の中には、
       いったい何が書かれていたのだ?」


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    徐大人「『麒麟の才を持つ者、それを得る者が天下を得る』と」

    誉王「……それから?」
      「まさか、その一文のみだと言うのではなかろうな?」

      「手に入れれば世界を得るという、その麒麟の才を
       持つ者とやらは、いったい誰を指しているのだ」

    徐大人「それが……第六皇子は名を口にしようとはなさらず」

    徐大人の返答に、誉王は眉根を寄せた。

    誉王「どうやら、私自らが琅琊閣に出向かねばならぬようだな」

    そこへ、宿の男がやって来ると、一礼し頭を下げたまま告げた。

    男「殿下、夕餉の支度が調いました」


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     「広間にてお召し上がりになりますか、それとも……」

    誉王「広間に参ろう」

    そう言って誉王が歩き始めたその時、目の前の男が
    突然、袖に隠し持った小柄を引き抜いた。


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    徐大人「殿下、刺客です!」

    男は小柄を振りかざし、まっすぐ誉王に襲いかかったが、
    誉王は皮一枚のところで小柄を避ける。

    返す刀で掌を斬られたものの、続けざまに
    襲いかかろうとした男を、近侍の近衛が庭へと蹴り出した。

    標的を仕留め損ねた刺客は、灯篭を蹴ると
    そのまま屋根へ上がって逃走を試みたが、
    近衛が放った剣がその背を深く刺し貫いた。

    男の喉から噴きあげた血が、空高く放物線を描く。


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    男は庭に落ち、絶命した。

    徐大人「宿を封鎖せよ!」
       「刺客の背後を追及するのだ」

    誉王に駆け寄った徐大人が、即座に指示を飛ばしたが、
    誉王自身がそれを止めた。

    誉王「やめておけ」

      「太子の指示だと知るために、わざわざ調べる必要もなかろう」

      「都に戻れば、父皇はまた私に褒美を与えるだろう」

      「今は一歩たりとも余計に踏み出すことは出来ぬ」

      「さもなくば、ただ死への道筋が残されるのみだ」

    徐大人「殿下」

    徐大人が俯く。


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    誉王「麒麟の才を持つ者とやらがいったい
       誰なのか、必ずや明らかにせねば」

    徐大人は黙って何度も首肯した。

    誉王「明日出発する」
      「進路を変更し、琅琊閣へ向かう」







    森の中に、川の対岸を行く誉王の一行を見守る黒衣の一団がいた。


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    一団を率いるのは、江湖の一派、天泉山庄の庄主、
    卓鼎風(ツァオ・ディンフォン)とその長子、
    卓青遥(ツァオ・チンヤオ)。


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    卓青遥「父上。確かめました」
       「誉王は馬車の中にはおらぬようです」

    卓鼎風「街を出た時は確実に中にいたはずだ」


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       「途中、分かれ道はさほど多くはなかった」

       「人知れず、姿をくらまそうというのか」
       「そうはさせぬ」

       「元の場所に戻り、引き続き追跡するぞ」

    卓青遥「はい」

    一行は、馬首を返した。

    馬たちは、水飛沫を蹴立てて走っていく。







    その頃、本隊から密かに外れた誉王一行は、
    琅琊閣への道のりを辿っていた。

    山道を登りながら、近衛の男が感嘆の声を上げる。

    近衛「琅琊山は、まことその名に恥じませぬ」
      「誉王殿下」

      「かくの如き世俗を離れた仙境を
       目にする機会は、まことに貴重です」

    誉王「琅琊閣は従来、世にいる英雄たちの存亡を
       知り、天下の大事を評することができると
       称しているのだ」


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      「むろん、凡俗の地ではありえぬだろう」

    近衛「殿下がおっしゃる通りです」

    誉王「行くぞ」







    琅琊山の頂きにある台地で、
    藺晨が剣を振るっていた。


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    ひらめく剣を追うように、白い衣が舞う。


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    そこにあるのは、時が止まったかのような、幽玄の美。







    琅琊閣に、客の来訪を告げる鐘が鳴り響く。

    誉王一行が鳴らした鐘だ。

    誉王はあたりをぐるりと見渡した。

    琅琊閣に到着した誉王一行を、
    藺晨の側近の男が出迎え、一礼する。


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    男「お尋ねします、鐘を鳴らされたのは先生ですか?」

    誉王「琅琊閣の名声は以前より聞き及んでおります」

      「本日は、とある難題についてご助力願いたく
       参じた次第」

    男「先生、どうぞ私どもにさような礼儀は無用にて」

     「琅琊閣は、人々の問いにお答えするのを
      生業としております」

     「どうぞ、あちらにある鍵のついた箱をひとつ
      お選びいただき、お尋ねになりたい内容を書いて、
      中にお入れください」


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     「三日後、弊閣より代価の見積もりを
      入れておきます」

     「もし、その値が適正であると思われた場合は
      箱の中に、見積もりに沿った代価をお入れください」

     「回答は、誰かがあなたの手元にお届けいたします」

    誉王「琅琊閣の取引の決まりは承知した」

      「だが世に在る難題は、どれひとつとして同じではない」

      「あの小さな抽斗に見合うものもあるだろうが」
      「むろん、そうでないものもあろう」

      「違いますかな?」

    誉王の言葉に、男は微笑んだ。

    男「わかりました」
     「先生、私と一緒にどうぞこちらへ」


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    男は誉王を奥へといざなった。







    男はひとり山を登り、藺晨のもとへとやってくる。

    男「少閣主」
     「梁の誉王が来ております」

    藺晨「用意しておいた錦の袋を渡せ」
      「都に戻ってから開けるよう伝えるがいい」

    男「はい」

    藺晨「誉王が来たということは、
       太子の使いも着くころだろう」


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      「その時は、彼らにも同じ答えを渡せ」

    男「しかし……」

    歯切れ悪く言葉を濁した男に、藺晨が向き直った。

    藺晨「何だ?」

    問われた男は、躊躇いがちに口を開く。

    男「琅琊閣がいったん朝廷の問題に回答を始めたとなれば」

     「我らの静寂が破られるのではないかと」

    藺晨「問題は朝廷に起因するかもしれぬが」
      「答えは江湖にある」

      「害はなかろう」

    藺晨は首を振り、男の懸念を一蹴した。







    誉王は、通された部屋に静かに端座していた。

    そこへ先ほどの男が、錦の小さな袋を
    ひとつ乗せた盆を捧げ持ち、戻ってくる。


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    男は盆を誉王の前の卓に置いた。


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    男「こちらが先生がお求めの答えです」

    あまりにもあっさりと提示された袋を見て
    かえって訝しげに誉王が問う。

    誉王「私が問うたのは、あの箱には入りきらぬ
       大きな問題だ」

      「貴閣は、もっと熟慮せずともよいのか?」

    男「風や雲は、たとえその形を変えようとも、
      結局その本質は元のままです」


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     「熟慮を重ねても益はございませぬ」

    男の言葉に得心したのか、
    誉王は黙って錦の袋を手に取った。

    誉王「貴閣に約束した代価は、
       三日以内に届けさせよう」

    誉王の言葉に、男が一礼する。

    誉王は頷くと、その場を後にした。







    馬を駆り、梁の都、金陵へと帰還した誉王。


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    王府に到着し、戸口で侍女に外套を渡すと
    そのまま建物の奥へと歩み入った。

    自室に入り、念のため窓を閉める。

    懐から、件の錦の小袋を取り出すと、
    椅子に腰かけてそれを眺めた。





    いっぽうその頃、東宮を密かに訪れる者があった。

    頭巾を目深にかぶったその人物は、まっすぐに
    太子の御前まで歩み寄ると、頭巾を外す。

    姿を現したのは、寧国侯、謝玉(シェ・ユ)であった。

    謝玉の姿を認めた太子が笑みを浮かべる。

    太子「どうだ? 手に入れたか?」


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    謝玉「卓鼎風が昼夜を問わず駆け続け」
      「誉王とほぼ時を同じくして金陵に戻りました」

      「そして、この錦の袋を届けて参ったのです」

    そう言って謝玉は、錦の小さな袋を太子に差し出した。





    誉王は、小袋を開け、中に入っていた一枚の布を取り出す。


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    時を同じくして、太子も錦の袋から布を取り出していた。

    布には、どちらも同じ、ごく短い文章が書かれていた。


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    太子は、布に書かれている最初の一行を口にする。

    太子「琅琊榜の筆頭?」

    思わず太子と謝玉が顔を見合わせる。


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    太子は再び布に目を落とした。

    太子「琅琊榜の筆頭は、」





    誉王「……江左の梅郎(メイラン)?」

    (※郎:男性を指す呼称。この場合は、梅氏の意)





    太子「江左の梅郎?」

    眉をひそめる太子をよそに、
    謝玉は得心したような表情を浮かべた。





    誉王「般弱(バンルオ)」

    誉王は、不意にその名を呼んだ。

    誉王「この者は誰なのだ?」

    すると部屋の奥から、緩やかな足取りで
    女が一人、姿を見せた。

    般弱「琅琊榜に、風雲の一巻あり」

      「大功を立て、立身出世を成すだろう
       天下の奇才英才を記したものです」

    誉王府の参謀、秦般弱(チン・バンルオ)は、笑顔で答えた。


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      「誰であれ、琅琊榜に名を連ねることが
       出来るのは、栄誉なこと」

    そう言って優雅に礼を取る。

    般弱「この人物は」

      「琅琊榜の才ある者の番付に
       その筆頭として名が挙がっているのです」





    太子「この江左の梅郎とはいったい何者なのだ?」

    太子の疑問に、謝玉が答える。

    謝玉「江左盟の宗主、梅長蘇(メイ・チャンスー)です」





    般弱が梅郎を謳った詩を口ずさむ。

    『遥映人間氷雪様』(遥か遠くに映るその姿は、雪か氷のよう)

    『暗香幽浮曲臨江』(どこからか漂う香りのように、
              たゆたう河に微かに聞こえる音曲)

      (※暗香:どこからともなく漂う香り。
           詩では、多く梅の香りを指す)

    『遍識天下英雄路』(天下の英雄の歩むべき道をあまねく識る)

    『俯首江左有梅郎』(梅郎を擁する江左にこうべを垂れよ)


    nirvana_in_fire_01_01_058.jpg


    般弱「江左盟は、梅長蘇の支配下にあります」

      「江左盟は江湖の一派ではありますが」

      「彼の支配地では、その勢力は
       年を追うごとに強くなっています」

      「彼に追随できる者はおりません」

      「さらに奇妙なことに、
       彼自身はまったく武芸を嗜まぬのです」

      「しかしその身辺には、彼の命に従う
       強者たちが多く控えております」

      「そのようなことを成し得たのは、ひとえに
       並ぶものなき智略のゆえではありませぬか?」

    誉王「梅長蘇か……」





    太子「もし、この琅琊榜の筆頭とやらが指しているのが
       梅長蘇という者であるのが確かなら」


    nirvana_in_fire_01_01_059.jpg


      「すみやかに行動に移さねば」

      「この麒麟の才を持つという者を
       我が東宮の麾下に迎えられれば」

      「我らは繰り返し誉王の風下に
       立たされることはなくなろう」





    誉王「もし彼が本当に麒麟の才を持つ者ならば」


    nirvana_in_fire_01_01_060.jpg


      「私は三顧の礼を以って、請い願おう」
      「般弱。丁重な贈り物を用意してくれ」

    般弱「殿下」
      「すぐに七珠を封じられるのです」

      「都を離れているいとまはございませぬ」

    般弱の言葉に、誉王は嘆息した。

    誉王「では封じられたのちに参るとしよう」
      「恐るるべくは……」

    その時般弱が、誉王の手に巻かれた布に目を留めた。


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    般弱「殿下、なぜ傷を負っていらっしゃるのです?」
      「よもや……」

    般弱が眉をひそめると、誉王は苦い口調で答えた。

    誉王「東宮の人間でなくば、他に誰がいるというのだ」

    般弱「道中、東宮が刺客を放ったということは」

      「殿下が琅琊閣へ行かれたことは、
       恐らく既に露見しているでしょう」

    般弱は、考え込むように続けた。

      「やはり明日早くに使者を一人、
       遣わされたほうがよろしいかと」

      「太子側の人間が接触する前に、
       この人物に会わねばなりません」





    太子「廊州に、即刻人をやるのだ」
      「必ず先に梅長蘇と話をせねばならぬ」

    謝玉が頷く。

    その時、太子がふと思い出したように尋ねた。

    太子「慶国公のことはどうなった?」

    謝玉「殿下、どうかご安心を」


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      「此度は、天泉山庄の卓家がことにあたっております」

      「必ずや、誉王の片腕をもぎ取ってみせましょう」







    霧の深く立ちこめる河を、一艘の小舟が追手を逃れ、渡っている。

    卓青遥「もっと急ぐんだ」

    追手が迫っているのを感じ取り、卓青遥が剣を抜く。

    卓青遥「早く!」

    小舟には、卓青遥の他に、粗末な身なりの老夫婦が乗っていた。


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    大きな船が徐々に距離を詰め、近づいてくる。


    卓青遥「急げ」


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       「もうすぐ江左に入る」







    小舟を追っていた数隻の船、その主である
    季贏(ジ・イン)が厳しい表情でつぶやいた。

    季贏「これ以上は追えぬ」


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    その時、どこからともなく、玲瓏とした美しい笛の音が響いてきた。

    追う者も追われる者も、その澄んだ音色に動きを止める。

    笛の音の主に思い当った季贏が慌てて声を張り上げた。

    季贏「船を停めよ!!」

    号令を受け、数隻の船がみな一斉にその場で停船する。

    すると、霧の中から一艘の小舟が姿を現した。


    nirvana_in_fire_01_01_066.jpg


    季贏は息を飲み、隣に立つ男はぽかんと口を開けた。

    小舟には男が一人佇み、静かに笛を吹いている。


    nirvana_in_fire_01_01_067.jpg


    漕ぎ手もいないその舟は、ゆっくりと季贏の乗る
    船に近づくと、少し離れた場所に停船した。

    小舟に乗った人物と対峙すると、季贏は丁重に礼を取る。

    季贏「私は季贏と申します」

      「軽率にも一時的に江左の地に足を踏み入れてしまいました」

      「梅宗主、どうかお許しを」

    季贏の謝罪を受け、舟に佇んでいた男──
    江左盟宗主、梅長蘇が口を開く。

    梅長蘇「双刹幇(※江湖の派閥のひとつ)は、
        ずっと江左盟と隣りあってきた間柄」


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       「今日は、季幇主みずからおいでとあっては」

       「私がお迎えにあがらぬわけにはいかぬでしょう」

    その時突然、ひとりの少年が空を切るように飛んで来た。

    呆気にとられる季贏たちの前で、少年は梅長蘇の舟にひらりと降り立つ。


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    少年は、腕に抱えた毛皮の襟巻がついた外套を
    黙って梅長蘇の肩にかけた。


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    梅長蘇は改めて闖入者たちに視線を向け、口を開く。

    梅長蘇「江左の地にいらしたからには、
        各位はこの梅長蘇の友人です」

       「幸い、双方ともにまだ諍いを始めてはおらぬ様子」

       「まだ交渉の余地は残されているでしょう」

       「もしこれが私怨であるなら」
       「双方の言い分を明らかにされよ」

       「江左盟は調停を引きうけることにやぶさかではない」

       「しかしもしこれが、殺人を請け負う仕事ということならば」

       「季幇主には、どうかお考え直しいただきたい」

    季贏が、隣に立つ男と気まずそうに視線を交わす。

    梅長蘇「我が江左の地にあっては」
       「そのような生業はまかり通らぬ」

    李贏「梅宗主」

    慎重に答えを返そうとした季贏を遮り、
    季贏の隣に立っていた慶国公府の男が無遠慮に口を挟んだ。

    男「あの者らは、慶国公府の官奴なのだ」

     「我らは、自分たちの奴婢を捕まえようとしているだけだ」

     「それがそなたに何の関係があるというのだ」

    男の言葉を聞いていた梅長蘇が静かに視線を上げた瞬間、
    背後にいた少年が、空高く舞い上がった。


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    そして瞬きする間に、
    あんぐりと口を開けて見ていた慶国公府の男を捕まえ、
    船から引きずりあげると、そのまま河へと放り投げた。


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    男は真っ逆さまに河へと落ち、
    少年は、何ごともなかったかのように
    再び梅長蘇の背後に降り立つ。


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    河に落ちた男は、必死で助けを求めた。

    男「助けてくれ!」
     「助けてくれ、季幇主!」

    梅長蘇は、まるで水の中でもがく男の悲鳴が
    聞こえていないかのように、淡々と告げた。

    梅長蘇「季幇主、友人を選ぶ際は、
        もう少し慎重になられたほうがいい」

       「これほど愚かな言葉は久しく聞いたことがない」

    季贏は礼を取ると丁重に訴えた。

    季贏「梅宗主」
      「この者は、江湖の人間ではございませぬ」


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      「彼は常に考えなしに口を開く人間で」
      「わきまえというものを知らぬのです」

      「江左盟の規律については、私はよく存じております」

      「どうか梅宗主が寛大なお心でお赦しくださいますよう」

    梅長蘇「河の水はたいそう冷たい」

       「春が訪れるまで、双刹幇のご兄弟の方は
        水の中で過ごされれば、これ以上
        仕事をせずに済むでしょう」

    梅長蘇の言葉に、季贏は一瞬躊躇うように
    視線を泳がせたが、すぐに頷いた。

    季贏「……はい」

    男「早く助けてくれ、季幇主!」

    なお助けを求める男の声を無視して、季贏は片手を上げた。

    季贏「退却せよ!」


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    男「助けてくれ……!」

    季贏は梅長蘇に向け、再度一礼した。

    男の声は、もはや誰の耳にも届いてはいなかった。

    船が引き返し始めたのを見て、少年が短く口を開いた。

    少年「戻ろう」


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    少年の言葉に、梅長蘇は穏やかな笑みを浮かべる。

    梅長蘇「わかった。おまえのいうことを聞くとしよう」

    ふたりを乗せた小舟が霧の中へと消えていくのを見送り、
    卓青遥はやっと息をついて剣を鞘に収めた。


    nirvana_in_fire_01_01_077.jpg







    後半へ続く









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    Comment - 4

    2015.10.20
    Tue
    20:00

    アル中@えつこ 

    URL

    まってました(≧∇≦)キャー♪

    ありがとうございます。もう~ただただ感謝です。この訳でもう一度観たくなりました。
    響様の語彙力と文章力に、敬服いたします。続きを楽しみにしています。

    編集 | 返信 | 
    2015.10.21
    Wed
    09:27

    響 

    URL

    To アル中@えつこ さま

    アル中@えつこさま、こんにちは!

    こちらこそ、いつも遊びに来て下さって、ありがとう
    ございます♪ 好きでやっていることではありますが、
    喜んで下さる方がいると、やる気倍増です!(笑)

    のんびり更新なブログですが、よろしければこれからも
    ぜひお付き合いください☆

    編集 | 返信 | 
    2016.01.30
    Sat
    21:00

    はるか 

    URL

    初めまして

    初めてお邪魔しました!
    まずは最新記事で目にしましたおめでたいニュースに
    お慶びを申し上げますです!!
    おめでとうございます!!

    それから、瑯琊榜のこの翻訳!!
    ホントに助かります!!
    ありがとうございます!!
    第一週はすでに視聴して、大体の話の運びはわかりましたが
    細かいところまでは「???」だったので
    セリフがわかってとてもスッキリしているところです!!
    瑯琊榜の放映が今から楽しみでなりません。
    これからもちょくちょくお邪魔して、
    勉強させていただきます!!!
    よろしくお願いしますm(__)m

    編集 | 返信 | 
    2016.02.01
    Mon
    13:51

    響 

    URL

    To はるか さま

    はるかさま、こんにちは☆
    初めまして。当ブログに遊びに来ていただき、
    ありがとうございます♪
    お祝いもありがとうございますΣ(。・ω・)

    『琅琊榜』の翻訳、素人翻訳ですが、少しでも
    お役に立てたなら嬉しいです(^ω^)

    『琅琊榜』の放送、決まりましたね!4月から
    ということで、わたしも今から楽しみです☆

    放送が始まったら、また『琅琊榜』について
    たくさんお話しましょー☆

    編集 | 返信 | 

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