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    琅琊榜 第1話 (翻訳 2/2)

     22,2015 19:01
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    原題 : 琅琊榜 Nirvana in Fire
    英題 : Nirvana in Fire

    制作 : 侯鴻亮
    監督 : 孔笙 / 李雪
    主演 : 胡歌(フー・ゴー)/ 劉涛(リウ・タオ)/王凱(ワン・カイ)


    【あらすじ】

    4世紀中国の動乱のさなか、
    封建国家の渝と南部地方の梁の間で戦が起こる。

    梁の林燮(リン・シェ)将軍は、自身の十九歳の息子、
    林殊(リン・シュー)を戦に伴い、敵対する渝の軍を退ける。

    しかし、政敵が林燮将軍を罠に陥れ、それは
    将軍が率いる七万の赤焔軍の死を引き起こす惨劇となる。

    忠実な部下の助けでかろうじて命拾いし、
    生き延びた林殊は、江湖に江左同盟を設立。

    十二年の時を経て、宗主・梅長蘇(メイ・チャンスー)
    として、名を変え、立場を変え、姿さえ変えて都に戻る。

    渝軍が再び攻撃を仕掛けるとき、
    梅長蘇は、己が守るべき人々をどのように守るのか?



    (ご注意)

    ※英文字幕を、中文の助けも借りて日本語字幕にしたものです。
     中国語→英語の段階で意訳されているものが多々ある上、
     英語字幕自体、誤字脱字誤訳が多いため、元の内容と異なる
     可能性があります。意訳が著しい場合、中文を元にしています。

    ※セリフのほとんどに対応していますが、あくまで素人が
     趣味で訳したものなので、「ざっくり内容が知りたい」方向け
     です。正確さを求める方は、公式放送をお待ちください。

    ※素人翻訳ではありますが、転載・再利用などはご遠慮ください。

    ※蛇足ですが、琅琊榜の読み方は、『らんやばん』です。

    楽しんでくださる方がいらっしゃれば、幸甚です。




    ++++++++++++++++++++





    卓青遥(ツァオ・チンヤオ)が旅人の姿に身をやつし、
    数名の部下と共に老夫婦を連れて街の門をくぐった。


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    梁帝が、太監総管たる高湛ひとりを伴い、回廊を歩いていた。

    梁帝「さきほど、景桓(ジンファン※誉王)にのみ
       王珠をふたつ下賜したが」

      「越貴妃と太子の機嫌はよくなかったな」

      「そなたも見たであろう?」

    梁帝が苦々しくつぶやく。

    太監総管「誉王は陛下の命に従い、陛下に代わって
         江左の十四州を巡視され」

        「数ヶ月に渡り、ご尽力なさったのです」

        「褒賞を賜ることは当然でございましょう」


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    皇帝「あの二人の子供らには」
      「まことに気を揉ませられる」

      「聞いたところによると、彼ら二人は昨日、
       揃って腹心の部下を遣わしたとか」

      「手厚い贈り物を持たせて、廊州へとな」

    太監総管「それは……それは、私めは存じませんでした」

    梁帝「そなたはずっと皇宮内におるのだ」
      「知らなくて当然であろう」

    梁帝は太監に近づくと声をひそめ、小声で続けた。

      「彼らは、麒麟の才を持つ者とやらを
       争いに行ったらしい」

      「『これを得た者がすなわち天下を得る』などと
       言うではないか」

      「しかししょせんは、江湖の一介の民に過ぎぬ」

      「なにゆえ朕の天下を脅かすことが
       できるなどと言えるのだ」

      「とんだ笑い話だとは思わぬか?」

    太監総管「さようでございますね」


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    太監総管は、梁帝に調子を合わせて笑っていたが、
    いつまでも笑い続ける太監を、皇帝が睨みつける。

    太監総管は気まずそうに口をつぐんだ。







    廊州を騎馬の一団が駆けていく。


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    梅長蘇(メイ・チャンスー)は、書に何やら書付をしていた。

    そこへ、江左盟に所属する黎綱(リ・ガン)が
    やってくると、膝をつき、報告した。

    黎綱「宗主」

      「昨日おっしゃっていた三つの案件については
       すべて手はずが整っております」


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      「秦州へは、丘真を手配しました」
      「よろしかったでしょうか」

    梅長蘇は書に目を落としたまま答える。

    梅長蘇「上出来だ」

    黎綱が頭を下げる。







    白い鳩が飛んでいる。

    少年は、鳩を追い払うかのように
    屋根から屋根へと軽やかに飛び移ると、
    中庭に舞い降りた。

    鳩はどこへともなく飛び去る。

    男「飛流(フェイリウ)! 飛流!」


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    梅長蘇の護衛を務める少年──飛流は、
    誰かが遠くで自分を呼ぶ声に気付いて耳を澄ます。

    家人「こちらへどうぞ」

    近づいてくる声の主を察知した瞬間、
    少年は素早くその場から逃げ出した。

    男「案内はいらぬ。勝手知ったる場所だ」

     「私が江左盟に遊びに来ると、
      おまえはいつも居場所がわからんな」

    庭先から聞こえる声に気付いた黎綱は
    背後を振り返ってから、怪訝そうに口を開いた。

    黎綱「飛流はいったいどうしたというのでしょう」

    梅長蘇「彼がどうかしたのではなく」
       「誰かが来たんだろう」

    梅長蘇の言葉に、黎綱は思い当ったように呟いた。

    黎綱「他の人間だったら、彼はこんな風にはなりませんね」

      「どうやら、到着したのはあの方のようです」

    そこへ庭から直接、藺晨(リン・チェン)が姿を見せる。

    ずかずかと無遠慮に上がりこむと、
    あたりをきょろきょろ見渡して尋ねた。

    藺晨「飛流は?」


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    入ってくるなり、開口一番そう尋ねた闖入者を、
    書から目を離した梅長蘇が興味深そうに見上げた。


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    藺晨「どこに行ったんだ?」

    梅長蘇「藺少閣主のおいでとあらば、
        彼が身を隠さぬわけがない」

       「まさか、あなたにおもちゃにされるのを
        おとなしく待っているとでも?」

    梅長蘇の言葉に、藺晨はにんまり笑うと
    部屋の奥へと歩み入った。







    言豫津「お嬢さん、これはおいくらかな~?」

    国舅府の子息 言豫津(ヤン・ユジン)は
    露店で売り物の楽器を両手で捧げ持つと、
    満面の笑みを浮かべて尋ねた。

    少女「十文です……」

    売り子の少女が、はにかみながらしとやかに答える。

    言豫津「おお~」
       「では、これは~?」


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    言豫津は、別の楽器を掲げて見せる。

    少女「ニ十文です……」

    言豫津「ほおお」

    隣で友人の買い物が終わるのを待っていた
    謝国侯府長子・蕭景叡(シャオ・ジンルイ)は、
    ため息をつくと、豫津の肩を叩いた。


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    蕭景叡「言家の公子殿」

       「貴公のその買い物の仕方では、いったい
        いつになったら我らは金陵に戻れるんだ?」

    言豫津「私に命令する気か?」

       「今は昼時じゃないか。訪問するには相応しくない」

       「要するに今日中に彼を迎えに行ければいいんだろ?」

       「少しぐらいぶらぶらしたからって何だっていうんだ」

    そう言うと、豫津は拗ねたように頬を膨らませたが、
    売り子の少女を見るとまたすぐに笑顔を浮かべた。

       「では、これは~?」

    豫津が別の笛を捧げ持ったその時、
    馬の嘶きと共に、ものものしい騎馬の一団が駆けてきた。

    黒地に銀の龍の縫い取りがされた旗を掲げている。


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    言豫津「『黒底銀竜王旗』だ」

       「景叡、あれは渝の王族の戦旗じゃないのか?」

    蕭景叡「そうだ」

    ふたりで顔を見合わせた後、
    言豫津は手に持っていた笛を少女に返した。

    言豫津「ありがとう、日を改めてまた来るよ」

    露店を離れ、並んで歩きだす。

    蕭景叡「十二年前」

       「我ら梁と渝は、梅嶺で戦をして以来、
        両国の国交はほとんどないはずだ」

       「こんな時に使臣を遣わすとは」
       「いったい何をしようとしているんだ?」







    藺晨「本当にあの二人の公子、蕭景叡たちと一緒に
       都に行くつもりか?」

    梅長蘇「彼らふたりの身分は高貴で、
        かつ朝廷の政にも干渉していない」

       「彼らが最も適任なのだ」


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       「いずれにせよ、どこかで口火を切らねばならぬ」

       「もし彼らについて行かなかったとしたら」

       「まさか本当に私に、太子と誉王の招きを受けて
        都に行き、彼らの参謀になれとでも?」

    藺晨「蕭景叡は、政治に関与していないかもしれないが」

      「彼の父親である寧国侯、謝玉は違う」

      「こんな風に直接謝府に赴くのは
       危険を冒し過ぎじゃないか?」

    梅長蘇「心配は無用だ」

       「一朝一夕で準備したわけではない」

       「寧国侯府に滞在したとしても、自分の身は十分守れる」

    藺晨「ならまあいい」

    そこへ、黎綱がやってきて膝をついた。

    黎綱「宗主」


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      「門の外で蕭景叡と名乗る公子が面会を申し出ています」

      「彼が言うには、彼はあなたの友人だとか」

    梅長蘇は笑みを浮かべると、無言で藺晨と視線を交わした。

    梅長蘇「彼に偏庁で待っていてもらえるよう伝えてくれ」







    言豫津「なあ、景叡」

       「いつも君が江湖に入り浸っているとは言っても」

       「江左盟の宗主と友人になるなんて
        容易なことじゃなかっただろう」

    梅長蘇の家人に案内され、偏庁へと向かう途中で
    豫津が、興味深そうに景叡に聞いた。


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    蕭景叡「二年前、一度運よく機会に恵まれて、
        会うことができたんだ」

       「最近、彼の身体の具合がよくないと聞いて、
        廊州の冷たい気候のせいじゃないかと思った」

       「それで彼に文を書いて送ったんだ」
       「金陵の我が家で静養しないかと」

       「予想に反して、まさか彼がこんなにあっさり
        同意してくれるとは思わなかったが」

    言豫津「聞いたところによると、
        彼は武芸の腕はからきしだとか」

       「それでもなお、多くの武芸の達人たちを
        従えている」

       「どうやったらそんな不思議なことが
        できるのか、わからなかったが」

       「幸運にも今回、ついに彼に
        面と向かって会うことができるとは!」

    興奮した豫津は、飛びあがって景叡の肩を叩いた。

    はしゃぐあまりつい声が大きくなった豫津を、
    景叡がたしなめる。







    藺晨が梅長蘇の脈を診ていた。


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    藺晨は梅長蘇の腕から手を離すと、
    腕を組み、ため息をついた。

    険しい表情で明後日の方向を見やる。


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    梅長蘇「私の脈を診るたび、毎回その表情をするのは
        なんとかならないのか?」


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    藺晨が梅長蘇に視線を戻す。

    梅長蘇「私が行くのを見送りに来たのか、
        それとも止めに来たのか、どっちなんだ?」

    藺晨「私に、おまえを止めることが出来るのか?」

    口をつぐんだ梅長蘇を見て、藺晨が続けた。

    藺晨「十二年前から分かっていた」

      「いずれおまえが金陵へ戻らねばならぬ時が
       やってくるのは」

    梅長蘇「私が戻らねばならぬことを分かっているなら、
        これを成し遂げるのを手伝ってくれ」

       「私の身体がまだ持ちこたえられているうちに」

    藺晨「なあ。脈を診はしたが、
       私はまだ何も言っていないんだぞ」


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      「おまえの身体がまだ大丈夫だと、
       なぜわかるんだ?」

    茶化すようにそう言った藺晨に、
    梅長蘇は低い声で答えた。

    梅長蘇「ならば教えてくれ」
       「私はあとどのぐらい持ちこたえられるんだ?」

    藺晨「では、どのぐらい必要なのかを教えてくれ」

    梅長蘇「二年」

    即答した梅長蘇に、藺晨が乾いた笑いを立てた。

    藺晨「二年は平気だろう」

      「……医者を十人、連れて行くならな」

    そう言って、むくれたようにそっぽを向く。

    梅長蘇は何も言わず、ただじっと藺晨を見つめている。


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    しばらく明後日の方角を見ていた藺晨だったが、
    梅長蘇に視線を戻し、彼と目を合わせると、
    それ以上何も言えなくなってしまった。

    毒づく気も失せたのか、
    ややして諦めたようにため息をつく。

    しぶしぶといった態で袂から薬の小瓶を取り出すと
    音を立てて卓に置いた。


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    藺晨「心の臓が弱くなったら、一粒飲め」

      「なくなりそうになったら、
       すぐに私を都へ呼ぶことを忘れるなよ」

    そうしてまた不機嫌そうに視線を逸らす。

    梅長蘇は、唇を引き結ぶと、そっと薬の小瓶を手に取った。

    手の中の小瓶の重みを感じながら呟く。

    梅長蘇「君がいれば、十人の医者より心強い」

    そう言って穏やかに笑んだ梅長蘇を見て
    藺晨は鼻を鳴らした。

    そして、やおら外に向けて問いかける。

    藺晨「飛流」


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      「おまえの蘇哥哥(ガーガ)は、
       おまえを捨てて金陵へ行くらしいぞ」

     (※哥哥:兄、もしくは親しい間柄の年上の男性につける呼称)

      「どうだ、私と一緒に南楚に遊びに行かないか?」

    すると突然、飛流が屋根の上から軒下に
    ひょっこり顔を覗かせる。


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    飛流「いやだ。俺も行く」

    藺晨「行くって、どこへ?」

    飛流「金陵!」







    梁の帝都、金陵の門が見えてきた。

    馬に乗る蕭景叡と言豫津の二人を先頭に、
    その後に梅長蘇を乗せた馬車が続く。


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    帳を開け、外を見ていた梅長蘇は、
    徐々に近づいてくるその門を、万感の思いで見つめていた。


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    門の近くまで来た時、門前にいた衛兵たちが声を上げた。

    衛兵「郡主のお越しだ、道を空けよ!」

      「郡主のお越しである、みな道を空けるのだ!」

      「空けろ空けろ、早くするんだ」

    景叡と豫津は馬を道の端に寄せ、後ろを振り返った。

    そこへ、騎馬の一団が駆けてくる。


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    雲南王府郡主、穆霓凰(ムウ・ニファン)の一行だった。

     (※郡主:皇族の姫君。皇帝の娘は公主)

    先頭で馬を駆る女性の姿を認めて、
    景叡と豫津は笑顔を浮かべた。

    二人に気付いた郡主は、馬の歩みを緩めると、
    彼らの前で停める。

    景叡と豫津が、馬上から礼を取った。

    蕭景叡「郡主にご挨拶いたします」

    言豫津「霓凰姐姐(ジェジェ)!」

     (※姐姐:姉、もしくは親しい間柄の年上の女性につける呼称)


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    ふたりの挨拶する声が、馬車の中にいた梅長蘇の耳に届く。

    霓凰は、笑顔を浮かべると、突然剣を引き抜いた。

    同時に馬の背からひらりと空中へ舞い上がる。

    蕭景叡と言豫津の二人も、剣を抜くと飛びあがった。

    空中で一太刀剣を交えて、地に降り立つ。


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    郡主は、二人を同時に相手にして、戦い始めた。

    激しい剣戟の音があたりに響き渡る。

    梅長蘇は、そっと帳を開いた。


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    二人を相手に、活き活きと剣を振るう、美しい郡主の姿が目に映る。

    しなやかに、軽やかに、舞うように剣を振るう
    その姿は、眩しいほどの輝きを放っていた。

    その鮮やかな姿に吸い寄せられ、
    梅長蘇はまばたきすら忘れたように、じっと見入った。


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    だが郡主を見つめるその瞳にはなぜか、
    賛美の念よりも色濃く、深い哀しみの色が刻まれていた。

    郡主は、力強く大地を蹴って飛びあがると、
    二人を同時に蹴り飛ばす。

    吹き飛ばされ、尻もちをついた豫津に対し、
    景叡はなんとかその場に踏みとどまった。


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    梅長蘇は目を伏せ、そっと帳を閉じた。

    うめきながら身を起こした豫津を、景叡が支える。

    蕭景叡「大丈夫か?」

    霓凰が笑顔で口を開く。

    霓凰「悪くないわね」

      「今年はここまで受けられるようになったなんて」

      「ずいぶん進歩したわ」

    言豫津「霓凰姐姐、より進歩したのは私でしょう?」

    得意そうな言豫津に、霓凰が笑って答える。

    霓凰「景叡の進歩のほうが大きいわ」

    蕭景叡「お褒めに与り恐縮です、郡主」


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    言豫津「彼には、天泉剣の宗主が教えてるんですよ」

       「私に教えてくれるのは、夏冬(シャ・ドン)
        姐姐しかいない」

       「私より彼のほうが強いのは当然ですよ」

    しょんぼりと拗ねて落ち込む言豫津の肩を、
    蕭景叡が笑って叩く。

    霓凰も笑みをこぼした。

    霓凰「ふたりとも良かったわ」
      「すごく進歩した」

    言豫津「姐姐、次に会った時は、
        私たちの実力を試さないでくださいよ」

       「こんなにたくさんの人が見ているのに、
        あなたに太刀打ちできなかったら、
        恥ずかしいじゃないですか」

    霓凰「わかったわ」

      「次は、人のいないところで試すことにする」

    笑って請け負い、そのまま馬に戻ろうとした
    霓凰は、ふと思いついたように二人を振り返った。

    霓凰「ねえ、あなたたちふたり、
       どこへ遊びに行っていたの?」

    霓凰の問いに、景叡が背後の馬車を指差した。

    蕭景叡「友人をひとり、迎えに行っていたんですよ」

       「彼は具合が良くなくて」
       「都で静養するために、招いたのです」


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    景叡の説明を聞いた霓凰は、馬車を一瞥して
    うなずくと、ひらりと馬に飛び乗った。

    そして再び、門の中へと馬を進める。

    通り過ぎる刹那、郡主はふと馬車に目を向けたが、
    中にいる人物に気付くことはなかった。


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    蹄の音が遠ざかって行く。

    その音を耳にしながら、帳の内の梅長蘇は、
    そっと目を伏せた。







    屋敷の壁に埋め込まれた、
    『護国柱石』と彫られた石造りの額を見上げ、
    梅長蘇はわずかに首を傾けた。

    梅長蘇「『護国柱石』」

       「寧国侯府に恥じぬものですね」

       「これらの文字はみな、陛下が自ら
        筆を執られたものだとか」


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    蕭景叡「父上は、国のため、何年も戦に赴き
        人生の半分を馬上で過ごしました」

       「ゆえに、陛下よりこのような恩賜を得たのです」

    梅長蘇「……そうとも」

    梅長蘇の目に、強い光が宿る。

       「謝侯の軍功は、ただ人とは比べられぬ」

    景叡は頷いた。

    蕭景叡「この時間は、父上は書斎にいるはず」
       「蘇兄、どうぞこちらへ」

    案内しようと先に立った景叡を、梅長蘇が呼びとめる。

    梅長蘇「景叡」

       「今回、都へは静養のために来た」

       「一介の江湖人の身分でいたほうが、
        多くの煩わしさを省くことができるだろう」


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       「ここでは、蘇哲(スー・ジュ)と名乗ることにする」

       「私の名を呼ぶ時は、忘れぬようにしてほしい」

    蕭景叡「蘇兄、どうぞご心配なく」
       「肝に銘じておきます」

    その時、中から男がひとり、出迎えに来た。

    蕭景叡が笑顔を浮かべる。

    蕭景叡「謝弼(シェ・ビ)!」
       「戻ったのか」

    景叡は、出迎えにきた男を梅長蘇に紹介した。

    蕭景叡「当家の次男で、謝弼と申します」

    続けて、謝弼にも梅長蘇を紹介する。

       「こちらは蘇哲先生、私の友人だ」

    紹介を受けて、謝弼が一礼する。

    謝弼「先生、初めまして」

    蕭景叡「彼は持病をお持ちで、しばらく金陵で
        静養するため、我が家にお招きしたのだ」

    謝弼「兄上の友人とあらば、謝府にとっても賓客です」


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      「蘇先生、どうかおくつろぎください」
      「どうぞこちらへ」

    奥へと促す謝弼に、梅長蘇は会釈した。







    書斎では、卓青遥が謝玉にことの詳細を報告をしていた。

    卓青遥「義父上、どうかご安心を」

     (※原文では岳父。岳父:妻の父)

       「あの老夫婦は、すでに御史台府衛まで
        安全に護送いたしました」

     (※御史台:官省のひとつ。行政の監察機関)

       「上訴も既に手渡しました」

    謝玉は、茶を汲みながら満足げに口を開いた。

    謝玉「よろしい」

      「これで慶国公の案件について誉王は、
       何があろうと彼を失うことは避けられまい」


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      「我らはただ、陛下がいかに処置されるかを
       見ていればよい」

    その時、庭から家人の報告の声がした。

    家人「侯に申し上げます」
      「大公子が戻られました」

    謝玉「わかった」

    卓青遥「彼らはまだ、私が都に来ている
        ことを知らぬはず」

       「今は会わぬほうがよいでしょう」
       「裏門から失礼することにします」

    そう言うと、卓青遥は笠と剣を手に立ちあがった。







    蕭景叡「蘇兄、こちらです」

    蕭景叡、梅長蘇、謝弼が連れだって書斎へとやってきた。

    部屋に入ると、景叡が一礼して挨拶する。

    蕭景叡「父上、ただいま戻りました」


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    謝玉「こたびの外遊は、またずいぶんと長かったな」

    室内で歩き回りながら書を読んでいた謝玉は、
    書に目を落としたまま、小言を口にした。

      「中秋節にすら戻らぬとは」

      「今後、もし再びこのようなことを
       しようものなら、私は……」

    そこまで言って視線を上げた謝玉は、
    蕭景叡の背後に見知らぬ人物が立っているのに
    気づき、微かに瞠目した。


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    謝玉「……客人がいらしたのか」

    梅長蘇は、謝玉をまっすぐに見据えたまま、
    ゆっくりと室内に足を踏み入れた。

    謝玉が、気圧されたようにわずかに顎をあげる。

    梅長蘇「蘇哲と申します」
       「侯にご挨拶を」

    梅長蘇は、感情の汲み取れぬ声で
    淡々とそう述べると、頭を垂れた。

    その脳裏に、血の記憶が蘇る。


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    謝玉は、初めて会うはずの目の前の男に
    なぜか底知れぬものを感じ、
    喉が干上がったように声を出せなかった。


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    梅長蘇は、ただ穏やかな笑みを浮かべている。


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    梁帝が、霓凰郡主を連れて廊下を渡っていた。

    梁帝「数日前より、既に朕は工部に命じて、
       公開試合をさせるための高台として
       迎鳳楼を作らせておる」

     (※工部:工事を担当する部署)
     (※迎鳳楼:武芸場の名前)

      「年齢・容貌ともに相応しい求婚者は、
       みなこの試合に参加できる」

      「勝者のうち上位十名が、文試に進むのだ」

     (※文試:筆記試験)

      「どうだ?」

    霓凰「文試の結果が、陛下が私のために
       選んでくださった婿ということですか」


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    霓凰の問いに、皇帝が含み笑う。

    梁帝「朕がそなたのために三名選んでやろう」
      「最終的に誰を選ぶかは、そなた次第だ」

      「今や雲南の王位も、穆青(ムウ・チン)が継承したのだ」

      「そなたが一人身でいる必要はあるまい」

      「おなごはどのみち、いずれは嫁がねばならぬ」

    霓凰「陛下のお心遣い、ありがたく存じます」

      「婿を選ぶとお約束したからには、
       今になって後悔はできませぬ」

      「ただ、決まりを少し変えられたらと思うのですが」

    梁帝「どのように変えたいというのだ」

    霓凰「文試での順位を元に、十名の勝者と私とで
       私に勝てる者が出るまで、
       一対一で試合をするのです」

    霓凰の提案に、梁帝が笑った。

    梁帝「霓凰。そなたの武芸の腕は、
       琅琊榜にその名が載るほどだ」

      「誰がそなたの相手になれるというのだ」

      「もしこの十人が、みな勝つことが出来ねば」
      「そなたはこたび、嫁ぎ損ねることにならぬか?」


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    霓凰「陛下、ご安心ください」

      「もし本当に天の定めた人に出会えたなら」

      「彼の武芸の腕に関わりなく
       自ら負けを選びます」

    梁帝「適当なところでやめるのだ、よいか?」

      「朕がそなたを心配する心を無にしてくれるな」

    霓凰「霓凰は、けして忘れませぬ」







    その頃、女人の官僚が一人、宮門をくぐっていた。


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    内官「陛下に申し上げます」

      「陛下のご命令により、懸鏡司の掌鏡使、
       夏冬が参内しております」
       
     (※懸鏡司:官省のひとつ。調査などを担当)

    梁帝「おお、そうだ。彼女に来るようにと
       申しつけたのだったな」

      「連れてくるがいい」

    内官「はい」

    内官が下がると、霓凰が口を開いた。

    霓凰「陛下」

      「陛下はご公務がおありのようですので、
       私はこれで失礼いたします」


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    梁帝「いや、秘密にせねばならぬ
       ようなことではない」

      「そなたも一緒に来て会うがいい。参ろう」

    霓凰「はい」

    梁帝と霓凰が歩を進めると、その先に、
    件の官僚が姿を見せ、その場に跪いた。

    夏冬「臣、懸鏡司の夏冬が陛下に拝謁いたします」


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    梁帝「立つがよい」

    皇帝の許しを得て立ちあがった夏冬は、
    郡主に向けて一礼する。

    夏冬「郡主」

    霓凰「夏冬大人」

    霓凰も礼を返した。

    梁帝「今日、御史台が案件をひとつ持ってきた」

      「ある老夫婦が、長旅を経て都へ参り、
       慶国公とその一族に関する告訴状を出したと」

      「濱州において、彼らが他人の資産を
       我がものとして剥奪し、人を殴り殺めた等、
       他にも多くの罪を犯したということだ」

      「そなた自ら調査に出向いてはくれぬか」

    夏冬「どうかご下命ください」

    梁帝「朕はそなたを特使に任ずる」


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      「この件をつぶさに調べるため、
       朕の密命を持ち、濱州へ向かえ」

    夏冬「承りました」







    夏冬「都に留まって、あなたの婿選びの
       結果を見届けられると思っていたけど」


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      「こんな時に限って、陛下が私を遠くへ
       お遣わしになるとは、思ってもいなかった」

    霓凰「心配しないで」

      「陛下は既に約束して下さったわ」
      「私自身で、求婚者と試合をしてもよいと」

      「問題は起こらないはず」

    夏冬「もし陛下が賛同されていなかったら、きっと
       あなたの心には添わない結果になっていたわね」

      「ただ、陛下がお約束下さったとはいえ」

      「あなたが、自分にその機会を与えぬのでは
       ないかというのが心配よ」

      「ただ、最初の約束を──あの交わされるべきでは
       なかった婚約を守ることだけを、望むのではと」


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    霓凰「心の中では分かっているのよ」

      「あなたと私はお互い、軍で出会って
       親しくなったとはいえ」

      「私が嫁がぬ限り、私と林氏とのかつての婚約を
       あなたが気にせずにはいられないということも」


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    霓凰「そして、私を完全には友人として
       扱えない、ということも」

    夏冬「私の夫、聶鋒(ニ・フォン)はあの時、
       林氏の麾下にあって、忠誠を尽くしていた」

      「梅嶺の戦で、主君である将帥に殺され、
       遺体すら戻らなかった」

      「夫を殺された恨みは、永遠に
       忘れることなど出来ない」

      「この思いは、察してくれることを願ってる」

      「ただ、あなたももう若くはないわ」

      「あなたにとって、安らげる場所があれば
       いいとも思っているの」

    霓凰「私もそう願っているわ」


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      「ただ、実際のところ……、今回陛下が婿を
       選ぶのは、何か思惑あってのことでしょう」

      「もし本当に私の意に添う人が見つけられ
       なかったとしても」

      「何ごともなく雲南に戻ることは
       おそらく難しいでしょうね」


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    第2話へ続く









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